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東南アジアからの新しい風 (TAIPEI Quarterly 2017 秋季号 Vol.09)

アンカーポイント

発表日:2017-09-14

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東南アジアからの新しい風

新移民を包み込む異文化尊重の街

 _ 凃心怡    写真 _ 許斌、楊智仁、周嘉慧
 

人でごったがえす台北駅は、台北市における最も重要な交通拠点の一つで、台湾各地を行き来する人々の玄関口、経由地、待ち合わせ場所となってます。そんな台湾鉄道・台北駅のコンコースは、週末になると東南アジアからの移民や出稼ぎ労働者たちが集う場となり、思い思いの場所に腰を下ろして音楽を聞いたり、おしゃべりを楽しんだり、食べたりしつつ、暮らしのあれこれを語り合う姿が見受けられます。そこではベトナム語、インドネシア語、タイ語などさまざまな言語が飛び交い、台北とは風情を異にする東南アジアにいるかのような雰囲気に包まれます。
東南アジアからの新移民増加に伴い、ふるさとの味を楽しみたいという需要に応える「東南アジア商店」も登場しています。(写真/許斌)
▲東南アジアからの新移民増加に伴い、ふるさとの味を楽しみたいという需要に応える「東南アジア商店」も登場しています。(写真/許斌)

「新移民」にとり、信仰の場が心のよりどころとなっています。(写真/楊智仁)

▲「新移民」にとり、信仰の場が心のよりどころとなっています。(写真/楊智仁)

台北では公共スペースも、移民の人々が空いた時間に楽しめる場所となっています。(写真/許斌)

▲台北では公共スペースも、移民の人々が空いた時間に楽しめる場所となっています。(写真/許斌)

 

新移民の台湾定着を支援

台湾の「新移民(1990年代以降に主に東南アジアから台湾へ移住した人々を指す)」と言えば、かつては東南アジアから台湾に嫁いで来た女性たちが大部分を占めていました。台北市民政局人口政策科の蘇詩敏科長は統計データを基に「台北市には約34,000人の外国籍配偶者が住んでいるが、既にここの国籍を持つ人も含めればその数は5万人を超える」と説明します。台湾で3番目に外国籍配偶者が多い自治体となっていることから、台北市政府は彼女たちが抱える問題や必要とする支援の把握に努めています。

「彼女たちが台湾へ来て直面する最大の問題は言語と文化への適応だ」と蘇科長は指摘します。文化の違いと無理解はしばしば冗談のような誤解を生むと言います。あるカンボジア籍の女性は、「坐月子(産後の肥立ちをよくするため産婦に約1カ月間、外出や入浴、洗髪を禁ずるなど様々な制約を加える中華圏の伝統的風習)」の期間中、姑から嫌われていると思い込み、「こんなに気温が高いのに姑はかき氷を食べるのを許してくれないばかりか、アツアツの食べ物ばかり作って食べさせる」と不満をこぼしていました。しかし、説明を受けてようやく台湾では坐月子の間、温かい食べ物で体を冷やさないよう心がけるのだということを理解したそうです。

外国籍の配偶者がより快適な台湾生活を送れるよう、台北市政府は2000年から、言語学習、運転免許の取得など各種教育カリキュラムの開講や、就業・子育て・健康に関する支援プログラムの提供を相次いで実施しています。また2005年には台湾初となる新移民向け福祉施設「台北市新移民会館」を開設。居留、健康保険、託児など社会福祉関連の相談を受け付けているほか、言語、料理、家庭内コミュニケーションに関する授業を行うなど、移民たちにあらゆる方面からの支援サービスを提供しています。また台北市社会局は今年6月から8月にかけて、新移民が自分の家庭料理を教え合うイベント「来自家的好味道(ウチのごちそう)」や一般の小学生と新移民二世の小学生を集めた文化交流イベントを開催。こうした催しを通じて新移民やその子どもたちが気軽に異文化に触れて生活の視野を広め、自らのスキルを向上させるサポートをしています。

外国籍の出稼ぎ労働者に対しては、台北市労働局労働力重建運用処が各国語バイリンガルによる相談受け付けのほか、詩・作文コンテストの開催、健康診断、衛生指導の実施といった支援策を打ち出しています。また東南アジア各国語で情報を伝えるラジオ番組「ハロー・タイペイ」を放送し、外国人労働者たちの故郷を思う気持ちを癒やしています。さらに、それぞれの母国の祝祭日に関するイベントも開いています。例えば台北市では多くのインドネシア人ムスリム労働者が働いている現状に配慮し、イスラム教の伝統的な習俗に対する理解を深め、文化交流を促進するため、労働局と観光伝播局が今年6月、ラマダン(断食月)明けを祝うイスラムの祝祭「台北イード祭」を開催しました。

このほか社会局、衛生局、教育局といった機関もさまざまな新移民向けサービスを提供していますが、市は利便性向上のため、各種情報を公式サイトの「台北市新移民コーナー」に統合し、さらに中国語、英語、日本語、ベトナム語、インドネシア語、タイ語、フィリピン語、カンボジア語、ビルマ語の9カ国語で閲覧できるようにしています。
東南アジアからの新移民や出稼ぎ労働者が集まるエリアには独自の雰囲気を持つ「東南アジア商圏」が形成されています。(写真/許斌、撮影場所は中山北路3段)

▲東南アジアからの新移民や出稼ぎ労働者が集まるエリアには独自の雰囲気を持つ「東南アジア商圏」が形成されています。(写真/許斌、撮影場所は中山北路3段)

新移民たちの存在が台北市に多様性豊かな異国情緒を生み出しています。(写真/許斌)

▲新移民たちの存在が台北市に多様性豊かな異国情緒を生み出しています。(写真/許斌)

 

リソース統合 
各機関が横の連携

充実した支援が受けられるようになったことで、東南アジアからの新移民たちは台湾での暮らしに適応できるだけでなく、やって来たばかりの友人の問題解決を手助けする能力を身に付けるようにもなりました。彼らは学校や公的機関において、言葉が分からない新移民や労働者たちの通訳を務めるばかりか、家庭内で起きるさまざまな問題の解決にも手を差し伸べています。ある通訳者は、新移民二世の姉と弟をサポートするため学校に向かったところ、その一家の経済を支える父親ががんを患っていることを知りました。しかも父親は仕事ができなくなることを懸念して治療を拒んでいると聞き、その通訳者はただちに民政局に事情を報告。民政局もすぐに社会局と協力して父親に治療を受けさせると同時に一家が経済援助を申請できるよう手配しました。台北市民政局人口政策科の蘇科長は、「各機関のリソースを統合して活用できることが台北市最大の強みであり、一旦問題が見つかればすぐに各機関が連携して対応するため、新移民たちがあちこち説明に出向いたり、たらい回しにされる苦労を味わわずに済むのです」と強調します。

生活に関する支援に加え、市では市民の意識向上にも力を入れています。東南アジアとの文化交流促進を目的に、市教育局では学校において多文化を学ぶための授業を必修とし、外国籍の母親たちを学校に招いて自国文化を紹介してもらうことで子供たちの心に異文化交流の種をまくよう指導しています。
台湾で働く東南アジアの若者の多くが、視野を広げるために来たと言います。休みの日に集まり、台湾での生活について語り合います。(写真/許斌)
▲台湾で働く東南アジアの若者の多くが、視野を広げるために来たと言います。休みの日に集まり、台湾での生活について語り合います。(写真/許斌)

 

「違う世界を見たい」と台湾へ

現在、結婚のため東南アジアから台湾へやって来るケースは以前に比べ少なくなっています。しかし台湾の一般家庭や工場、介護センターなどに住み込みで働く東南アジアの人々は依然として多く、この国にとって重要な働き手となっています。

今年で来台6年目、48歳のインドネシア人看護師のタントリさんは、現在の東南アジア系出稼ぎ労働者が以前と最も異なる点について「若年化です。私たちの時代は30歳を過ぎてから台湾に来ましたが、今では20歳そこそこの若い子たちが、違う世界を見てみたいというだけの理由でこちらで働くようになっています」と指摘します。

フィリピン出身の白杰森さんもその一人。来台8年目の彼は現在、東南アジア食品を扱う商店で店長を務めています。故郷へ帰れるのは年に34回だそうですが、「ここにいれば言葉の勉強や食文化の違い、家族や友人に会えないさびしさといった問題に向き合わなければなりませんが、台湾ではとても充実した支援や福祉、特に医療関係のサービスが受けられます」と話します。続けて彼は「僕らの国では医療費はとても高く、これ以上耐えられないという状態になってはじめて病院へ行くというのが普通です。でも台湾では風邪にしろ、歯の治療にしろ、わずかばかりの「掛号費」(日本の初診料・再診料に相当)を払えば最高の医療が受けられます。それに長く住めば住むほど、台北は外国人にやさしい都市だということに気付きます」と強調します。

こうした近隣諸国からやって来る人たちの中には、台湾へ移住し、積極的にこの国の文化に溶け込もうとする人もいれば、経済的利益が目的という人もいます。何はともあれ、彼らがこの都市に暮らし、日々奮闘していることで台北は多様性豊かな都市としての姿を見せることができるのでしょう。
東南アジア商店では「本場の味」が売られています。(写真/周嘉慧)
▲東南アジア商店では「本場の味」が売られています。(写真/周嘉慧)

台北市政府は新移民や出稼ぎ労働者の生活、就業問題について数多くの支援策を打ち出しています。(写真/許斌)
▲台北市政府は新移民や出稼ぎ労働者の生活、就業問題について数多くの支援策を打ち出しています。(写真/許斌)

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