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受け継いだ音楽のDNA 魂込めるバイオリン作りの道 (TAIPEI Quarterly 2017 冬季号 Vol.10)

アンカーポイント

発表日:2017-12-18

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受け継いだ音楽のDNA

魂込めるバイオリン作りの道

_ 鍾文萍  写真 _ 楊智仁

バイオリンの修理には多くの道具と精巧な技術が要求されます。(写真楊智仁)

台湾の先住民は音楽界に素晴らしい人材を次々に輩出しています。それは私たちがよく知っている歌手や台北ユニバーシアードの開幕式で会場をひとつにした「泰武古謠伝唱隊」だけではありません。台北‧天母にはひっそりと音楽を生業(なりわい)とする国宝級の人材——陸光朝さんがいます。チェコの「バイオリン製作家(Master Violin Maker)」証書を持つ彼は、現在の台湾ではごく少数のバイオリンの修理、演奏、調整、手作業による製作を行う職人です。
 

恵まれた音感 技術の鍛錬

陸さんはプユマ族が暮らす台東県の南王集落の出身で、父は先住民音楽家の陸森宝さんです。歌手の陳建年さんからは「おじさん」と呼ばれる人物で、隣村には張恵妹(アーメイ)さんが住んでいました。陸さんは楽器を習ったことはありませんでしたが、子供の頃から音程が外れているかどうか正確に判断できたそうです。「先住民は生まれつき音感が優れていると言われますが、おそらくそうなのでしょう」。自分を「じっとしていられない性格」と笑う陸さんは早くから実家を離れ、修道院や軍学校へ入った後に警察官や観光ガイドを経て楽器メーカーの営業担当になり、43歳の時にようやくバイオリンやチェロなどの調整‧修理の部門で助手となりました。ある時、社長の指示でチェコへ行ってバイオリン修理の技術を学ぶことになり、それが彼の人生を変えました。

「当時は全くの駆け出しで何もできず、あやうく台湾へ送り返されるところでした」。チェコの親方は陸さんに2週間の時間を与え、毎日1つの作業だけを行わせました。それはパフリング(バイオリンのふちに彫られている線)を入れる作業で、簡単そうに見えますが実際はそうではありません。陸さんがせっかちな気質を抑えまじめに取り組むと、2週間後親方は黙って彼に別の作業を与えました。「その時、合格したのだと分かりました」。半年の努力の結果、証書を手にした時には体重が20キログラム以上も落ちてしまい、空港に迎えに来た家族がほとんど彼だと分からないほどでした。「まるで税関から骸骨がふらっと出てきたみたいだったんです。」

業界の人々は陸さんを「肝っ玉の陸」と呼びます。17世紀イタリアの名器‧ストラディバリウスや18世紀のグァルネリ、その他百年の歴史を持ち、億単位の価値がある古いバイオリンから名のあるバイオリンまで、なんでも修理します。元々作りが悪く組み立てに問題があり修復が非常に難しい場合でも、断りません。「自分の手を動かして直すことでのみ技術を向上させることができます。これらの歴史をくぐりぬけてきたバイオリンたちが再び美しい音色を奏でることを願っています」。修理する際、陸さんは使用者の演奏方法を真似て、その人のくせに応じて音を微調整していきます。こうして楽器を「使用者にとって最もスムーズ」な最良の状態に戻すのです。しかしながら、非常にデリケートな使用者に出会うのが最も怖いと笑いながら言います。「全く聞こえない音もあるので、ゼロから調整するからです」。そういう時は使用者との対話に頼るしかありません。言葉や文字から判断し、再び修復を試みます。「ですので、職人は技術が優れているだけでなく、よく話を聞くことやコミュニケーションの技術もとても重要です。」

 かつて、陸さんは1週間かけて1丁の古いバイオリンを修理したことがありました。作業が終わった日の夜、白髪の外国人が夢に現れて彼に感謝を述べました。翌日、資料を調べてみた彼は、夢に登場した老人がそのバイオリンの製作者であったことを知ります。それはまるで時空を超えた魂の交流のようで、今でも思い出すと感動で胸がいっぱいになるそうです。音楽に魂を込める陸さんの人生は、愛する仕事に取り組む毎日で楽しく疲れ知らずです。
TAIPEI 冬季号 2017 Vol.10  受け継いだ音楽のDNA 魂込めるバイオリン作りの道
陸光朝さんが歩むバイオリン製作家の道は困難に満ちていますが、いつも楽しく向き合い疲れ知らずです。(写真╱楊智仁)

 

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