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食卓に幸せの温もり 蔡珠児さんのおもてなし家庭料理 (TAIPEI Quarterly 2018 春季号 Vol.11)

アンカーポイント

発表日:2018-03-19

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食卓に幸せの温もり

蔡珠児さんのおもてなし家庭料理

 _ 楊美娟   写真 _ 梁忠賢


▲蔡珠児さんは友達と食卓を囲みながらあれこれ語るのが大好きで、幸せなコミュニケーションのひとときを楽しんでいます。(写真/梁忠賢)

 

蔡珠児さんが手掛ける「家宴(おもてなしのごちそう)」は、友達の間で話題になるほど手が込んでいます。蔡さんはこれを盛大な行事と考え、数週間前から計画を立てて綿密に準備を進めます。農作物の収穫時期に注意しながらメニューを決めたり、思わぬ場所で材料を仕入れたりもします。休日に台北市の猫空地区の山へハイキングに行った際、道中で美しい緑の笹の葉を見掛けたら地元の住民から数枚分けてもらい、家で洗っておもてなし料理を引き立てる飾りに使います。ある食材を確保するために複数の伝統市場をこまめに回ることもありますが、蔡さんにとっては段取りの基本にすぎません。

「食事会のたびに伝統市場を23カ所回っていますが、最低限必要なことと思います。特定のお店で買うと決めている食材もあって、どうにか満足できる食材を揃えます」。とても面倒に思えますが、自分は慣れっこだと蔡さんは笑いながら語ります。「じっくり食事を味わうことは大切ですし、私にとってQuality Time(貴重なひととき)でもあります」。このような心掛けに忠実に、食材によって塩や油を使い分けるなど、相当なこだわりです。
 

▲新鮮なエシャロットの葉をガチョウ油で炒め、スベスベエビを添えた料理からは素敵な香りが漂ってきます。(写真/梁忠賢)
 

今回のインタビューの前日、蔡さんは市場で真冬にしか出回らないエシャロットを見つけ、嬉しさのあまりたくさん買いました。数種類の油を使って試しに料理してみたところ、ガチョウ油が一番エシャロットの香りと甘み、柔らかさを引き出せることがわかりました。これに基隆市の東北角沿海で捕れた、殻をむきワタを取ったスベスベエビを盛り付けます。きれいな緑色のエシャロットの葉と桜色のスベスベエビが互いを引き立て、濃厚ながらさわやかな香りが立ち込め、嬉しくなってしまいます。

「野菜の特徴に合わせてタレを変えてみると、さまざまな味わいを出せます」。蔡さんはお皿に盛り付けながら語ります。

▲料理の準備はどんな細かい作業も全て蔡さんが一人で行っています。(写真/梁忠賢)
 

地元の旬の
豊かな味わい

蔡さんは香港に長年住んでいたため、台湾に戻ってきてからここ23年間、台湾は香港と違って食材が豊富で素晴らしいと強く感じ、腕が試されているようだと話します。

「香港は食材の9割を輸入していて、季節を問わず世界各地からのさまざまな食材を年中目にすることができますが、種類は豊富でなく、香りもありません。台湾では2世紀にわたって品種の導入、改良を行ってきたため食材の種類が豊富で素晴らしいです」。蔡さんは話しながら濃い緑色の野菜の乗ったお皿を並べます。見た目はアスパラガスかシダレイトスギの葉っぱのようですが、食べてみるとシャキシャキとした食感で、潮風のようなしょっぱさが感じられます。「これは台湾中部の沿海で採れたシーアスパラガスです。もともとしょっぱい味がしますから、差し色として新鮮なユリ根を加えれば十分です」。

食材の話になると、田畑を耕したこともある蔡さんの表情はパッと明るくなります。今一心に作っているタロイモ入り汁ビーフンは、前日から下ごしらえが必要です。エシャロット、シイタケ、干した小エビ、カレイなどを細かく切ってからさっと油通しし、ニンジン、澎湖タコ、千切りの肉、モヤシなどを用意します。台湾料理のほとんどは良い具材をぜいたくに使い、色や味にもこだわります。「今はタロイモがおいしい季節です。ビーフンを食べたときにタロイモの食感も感じられるよう、油で揚げたタロイモと揚げていないタロイモの両方を鍋に入れます。もう少しすればボラ入りビーフンの季節ですね」。蔡さんはてきぱきと準備を進めながら語ります。

アツアツの汁ビーフンがテーブルに運ばれました。料理の温度にこだわる蔡さんが「熱いうちにどうぞ」と声を掛けます。

「テーブルに乗った瞬間こそ最適の温度と最高の味わいを堪能できるときです。人生も同じで、今この瞬間を味わうべきです」。どの料理も熱いうちに口に運んでもらいたい蔡さんは、来客者のために汁ビーフンをよそいながら語ります。

蔡さんは来客者の年齢や職業にも配慮し、丹念においしい料理を作っています。例えば、食べ盛りの若い男性が来る場合はまず、お腹にたまる「馬告(クベバ=ヒッチョウカの実)を加えた塩麹漬け豚あご肉とバターレタス」をふるまいます。塩麹に漬け込むことで豚あご肉の香りと味わい、肉質の良さを引き出すことができ、バターレタスはちょうど良いあっさり感を生み出します。また、「姫マツタケ」とも呼ばれるアガリクス茸は今が旬で、こめ油で軽く炒めて香りを出し、赤パプリカを少し添えて彩りにします。テーブルに出されると部屋中に芳ばしい香りが広がり、驚きの声が上がります。

▲タロイモ入り汁ビーフンは厳選した旬のタロイモを使い、ビーフンと絶妙な食感を生み出しています。(写真/梁忠賢)
 

大切な人に作る一品

友達を家でもてなす場合、蔡さんは前もって友達に料理の好みを尋ねます。それに夫のために必ず前菜の「六福焼き麩」を用意します。これはシイタケ、焼き麩、冬タケノコ、ワスレグサ、キクラゲ、そして夫の実家で必ず使うゆで落花生を砂糖、スターアニス(八角)、醤油を加えてとろ火で味を行き渡らせ、炒め煮したものです。
きめ細かい、何層にも奥深い味わいとなり、まるで家庭の温かみのようにほんのりとした上品さと豊かさが感じられます。蔡さんの家庭の食卓で最も多く出される一品でもあります。料理が次々とテーブルに運ばれてくるとだんだん和やかな雰囲気になり、お互いに箸で料理を取り分けながら会話が盛り上がり、時おり笑い声も上がります。蔡さんの食卓からは料理の温かさだけでなく、心の温もり、幸せの温もりも感じられます。


▲蔡さんは家庭を育む気持ちさながらのきめ細やかさで一つ一つの料理の味にこだわります。(写真/梁忠賢)

▲「六福焼き麩」は蔡さんの家庭で一番よく出てくる料理です。(写真/梁忠賢)

 

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