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伝統の技が生む紙と筆 手書きでしたためる記憶 (TAIPEI Quarterly 2016 冬季号 Vol.06)

アンカーポイント

発表日:2017-03-23

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伝統の技が生む紙と筆

手書きでしたためる記憶

_ 樊語婕 
写真 _ 吳金石、施純泰

スマートフォンやパソコンを使う毎日で、「手書き」の温もりと感動を忘れてはいませんか?手づくりの紙と筆に特有の質感に魅せられ、その伝統的な製法を学ぶ人たちがいます。さらに彼らは、昔ながらの工芸品に現代的なアイデアを取り入れ、新たな生命を吹き込んでいます。
TAIPEI 夏季号 2016 Vol.06 伝統の技が生む紙と筆 手書きでしたためる記憶
▲ 商品の細かな部分に李孟書さんの職人としての思い入れが垣間見えます。(写真/施純泰)

かけがえのない手すきの紙の温かさ
紙が人に感じさせる温かな美しさ。科学技術によって作られた製品がそれに取って代わることは永遠に叶いません。紙に恋した「二皿手作紙設計」の創業者、李孟書さんは安定した教師の仕事を捨て、手すき紙の研究に打ち込むことを選びました。そして個性的なはがき、ペンダントトップ、ランプシェードなどの商品を生み出し、同社を台湾でも数少ない「紙」を用いた特色あるブランドに育て上げました。
中学校から大学院まで美術を学んだ李さんは、一貫してアートとデザインの分野で努力を続けてきました。彼女が初めて接した手すきの紙は、小学校の書道の授業で使った宣紙(書道用の上質紙)でした。しかし当時まだ子どもだった彼女は特に強い印象を受けることはなかったそうです。その後大学院で論文を執筆する際、新しい文化の創造をテーマとして研究に取り組みたいと考えた彼女は、パイナップルの繊維を使った紙のギフトボックス「旺来(台湾語の「パイナップル」と同音、縁起の良い言葉とされる)」を制作しました。その過程でフィリピンにある台湾企業の紙工場を訪問し、紙作りには多くの手法があることを初めて知ったそうです。これが彼女の心に紙作りを職業とするという思いを芽生えさせました。
このような巡り合わせの後、李さんは独学で紙作りを学び始めました。まず資料を集めたり、製紙職人の作業を録画したりした後、さまざまな材料と製紙技術を自ら試しました。絶え間ない練習を経て、李さんは徐々に紙それぞれの特質を把握し、自分が思うような効果を生み出すことができるようになりました。大学院修了後、高校の広告デザイン科で教師になりましたが、心の中には紙作りへの渇望が存在し続けました。そしてついに安定した教職を捨てることを決心し、2010年に宝蔵厳国際芸術村で「二皿手作紙設計」を立ち上げました。ただこれは李さんにとって、手すき紙を使った商品の設計に取り組むかたわら、経営やマネジメントについてもゆっくりと学んでいかなければならないという、理想と現実の綱引きの始まりでもあったのです。

デザインで手すき紙に
新たな魂を
李さんは紙の持つ温かい質感が大好きだと言います。触覚と視覚を通じて、一枚一枚の紙どれからも異なる美しさを感じることができるほか、デザインと創意によって紙は豊かな表情を見せてくれるそうです。彼女は、紙は非常に穏やかな材料だと考えています。「例えばランプシェードや屏風に紙を使うと、光は優しく温かなものとなり、鋭さを消すことができます。」
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▲ 伝統的な手すき紙に新しいアイデアが加わり、独創的な商品が誕生しました。(写真/施純泰)

伝統的な製紙職人とは異なり、李さんは自分のデザイン力を発揮して手すき紙に新しい生命を吹き込んでいます。彼女の作品は人々の手すき紙に対する認識を新たにし、より日常的で実用的な存在に変えています。彼女の紙はノートやカードだけでなく、コースター、ランプシェード、屏風、パーテーション、ラッピング用品などに姿を変えて生活を彩ります。
李さんが創作に用いる素材の9割以上は生活の中で簡単に手に入るものです。段ボール紙、牛乳パック、使用済みの吸水紙など、捨てられた素材がパルプに姿を変えます。ビール製造で出る麦芽かすで作った紙で、酒メーカー向けに製品パッケージをデザインしたこともあるそうです。また地方の農協のために開発した商品では、地元で取れる環境に優しい素材を生かそうと、その土地で栽培されていたマコモダケの皮を使用しました。
「二皿手作紙設計」は週末に一般開放されている宝蔵厳国際芸術村のワークスペースのほか、誠品書店松菸店にも出店しています。ここでの手すき紙体験には親子連れ、国内外からの観光客、ハンドメイド好き、「文青(アート好きな若者)」など多様な人々が集まります。また李さんは障がい者施設など福祉施設へ赴き、スタッフに無料で授業を行っています。彼らが先生となって、障がいを抱える子どもたちが創造力を発揮すると同時に手先を訓練する機会を与えられればと彼女は願っています。
MIT(Made in Taiwan)の紙作りにこだわる李さん。将来は台湾原産のセンダングサのような材料をさらに多く見つけて、手すき紙により台湾らしい味わいを持たせたいと考えています。

二皿手作紙設計
汀洲路3段230巷59弄2号(宝蔵厳国際芸術村)
(02)2364-5313 内線314
金~日 12:00~22:00
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麦芽かすコースターの作り方
1. 乾かした麦芽かすや古紙など材料をミキサーに入れ、水を加えて混ぜます。
2.その中にのりを入れて均一になるように混ぜ、手すき枠の中に流し入れて水を切り、目玉焼き用の丸い枠で形を作ります。
3. 吸水紙で余分な水分を取り除きます。
4. 最後にアイロンをかけて出来上がり。


毛筆から化粧ブラシまで 老舗のこだわり
古い時代の雰囲気が色濃くが残る大稲埕地区には多くの老舗商店が並びます。その中のひとつ、手作り毛筆の代名詞的存在となっている「林三益」は細部にこだわる緻密な製造工程で知られます。店に入ると、毛筆、水滴(硯に使う水を入れる容器)、硯、印章、寿山石の彫刻などが陳列され、優雅で落ち着いたオリエンタルな雰囲気に満ちています。しかし別のコーナーにはアイシャドーブラシ、ファンデーションブラシ、角栓取りブラシなど化粧道具が並び、おしゃれなムードを醸し出しており、古くから伝わる文具と化粧道具が伝統と現代の共存共栄を象徴しているかのようです。
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▲ 筆作りの老舗、林三益。近年ではサンリオとの提携などにより、メイク用品市場で成功を収めています。(写真/呉金石)

「林三益」の歴史は清朝末期にまでさかのぼります。当時、最もお金をかけずに修得することができる技術が毛筆作りでした。一代目の林万務さんはその技術を身に付けるため、故郷の中国‧福州で師匠につき、地元の筆店「三益齋」で修業しました。独り立ちした後も師匠の下で仕事を続け、数年後にその店を譲り受けました。師匠の恩を忘れぬように店名を「林三益」とし、1946年に台北へ移り住んだ後は大稲埕で店を続け、「林三益」は台湾人なら誰もが知る、筆と墨の専門店となったのです。

48の工程 
筆先に宿る職人精神
良い筆とはどんなものでしょうか?「林三益」の四代目、林昌隆さんは、良い筆とは原毛の配合が正確で、筆先のまとまりがスムーズで弾力があるものだと言います。そういった筆は使う人が思いのままに操ることができるのだそうです。また、林さんによれば1本の筆を作るには少なくとも48の工程が必要で、さらにひとつひとつが職人によって何度も反復される細かい作業なのだそうです。製品の良し悪しはすべて職人の腕と細部へのこだわりによって決まります。
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▲ 林三益の親子は時代の流れに負けず、昔ながらの職人精神をメイク用品に生かしました。(写真/呉金石)

筆作りはまず、素材となる原毛の選択から始まります。毛についた皮を除去した後、毛をまとめて細かい毛や曲がった毛を取り除き、先端をそろえ、数種類の毛を混ぜ合わせていきます。それから毛を切りそろえ、数種類の毛が均一になるように梳き、巻いて筆先の形にして、外側を化粧上毛でくるんで縛る、といった厳格な工程をひとつひとつ行います。そして再び注意深く牛の角、銀、青花磁器などの材料を選んで筆軸を作り、筆に個性を添えます。

初心を忘れず
伝統と創造を両立
時代の変遷とともに毛筆を使う人は減り、さらに小学校、中学校からも書道の授業は消えてしまいました。1996年に林昌隆さんが店を継いだ時、この老舗店の火を絶やさないため、文房具店、書店、仏具店などへ足を運んで新たな市場を開拓しようと試みました。しかし、どこへ行っても「必要がないし売れないから筆はいらないよ!」と言われるばかりでした。
悩みに悩んだ林さんはある時、ネイルアートの店に触発され、ネイルアート用の筆を作ることを決心しました。そして2008年に化粧用具市場へ進出を果たし、化粧ブラシブランド「LSY」を立ち上げました。100年にわたる経験を持ち、筆を知り尽くした「林三益」は、豊富な材料選択に関する知識と強いこだわりで、昔ながらの職人精神を化粧ブラシ作りに生かしています。さらに新たなマーケティング手法も取り入れており、近年ではサンリオと提携して「ハローキティ」をデザインした毛筆と化粧ブラシも開発したり、化粧ブラシケースに台湾先住民を象徴する図案を取り入れるなどで愛用者を増やし、メイク用品市場で成功を収めています。
筆と墨の専門店から化粧ブラシブランドへ。「林三益」は分野を越えて見事な変身を遂げ、「筆」という製品を中心に伝統と創造を両立させています。今後はメイク用品事業だけでなく書道文化の普及にも継続して力を注ぐ計画で、書道教室を開設して受講者に筆を持つことで心を静めるという体験をしてもらいたいと考えています。また、筆と墨の専門家が集まるウェブサイトを立ち上げる予定もあり、100年の歴史を持つ老舗には今後も新しい生命が吹き込まれ続けるようです。

林三益筆墨専門店
重慶北路2段58号
(02)2556-6433
月~土 09:00~18:00
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筆の作り方
1. 使用する原毛を選びます。
2.原毛の先端をそろえます。
3.短い毛、細い毛を取り除きます。
4.骨のくしで原毛をそろえます。
5.筆先の形にします。
6.筆先を縛った後、筆軸に差し込みます。
7.筆軸に取り付けた後、最後の調整をします。
8.形を整えてのりをつけます。
 

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