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TAIPEI 2016夏季号 Vol.04—最高にご機嫌なペナルティは「 乾杯!」

アンカーポイント

発表日:2016-07-12

更新日:2016-09-23

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文 _ 江欣盈
写真 _ 李開明

6.2.1_八兵衛博多串燒,來自福岡的正宗博多風味,選用台灣桂丁土雞及宜蘭黑毛豬,是只有在台灣才吃得到的美味。店內紅酒、清酒、啤酒一應俱全,非常適合朋友聚會。.jpg
1. 「 焼とりの八兵衛」は福岡発祥、博多の本場の味わいです。台湾の地鶏「桂丁土鶏」と、宜蘭の黒豚を使い、台湾でしか味わえないおいしさを提供します。ワインから日本酒、ビールまでを豊富に取りそろえ、友人との集まりにぴったり。

ちょうどバブル経済がはじける直前、90 年代初頭の日本では、目の前に広がる繁栄を謳歌し、理想と夢はたった一歩先にありました。仕事を終えた会社員たちは居酒屋に集まり、先輩らは志を胸に大いに語り、後輩らは掲げたグラスを飲み干します。「イッキ!イッキ!イッキ!」心地よく酔えば、多彩なゲームが次々に行われます。年齢や性別、地位も問わない、食べ比べ、飲み比べ、度胸比べが繰り広げられます。東京渋谷の居酒屋の喧騒と愉快な酒の席の雰囲気、これが飲食グループ「乾杯集団」董事長を務める平出荘司さんの出発点でした。

チャンス?運命?
想定外の焼肉の道

「焼肉」「ビール」そしてキス10秒間でプレゼントされる豚バラ肉「親親豬五花」―このキーワードを聞けば、20 ~40 歳の台北人はほぼ瞬時に「乾杯焼肉居酒屋」を思い浮かべるでしょう。誕生日会や飲み会、送別会などどんな形式の集まりであっても、ワイワイガヤガヤとしたにぎやかな居酒屋では素晴らしい思い出になります。「乾杯」は間違いなく台湾の焼肉文化を変えたばかりでなく、台北人の食をめぐる思い出の中の「居酒屋」の代名詞ともなっています。台湾人の母を持ち日本で育った平出さんにとって、台湾との最初のつながりは食べ物でした。台湾から来た親戚と交流する機会がしばしばあり、台湾のイメージは食べ物と人情によって形作られたといいます。「見た目はこんなに似ているのに、言葉が通じないのはもったいないと思って」、高校を卒業したら台北で中国語を学ぼうと決心しました。台湾に来て2 年目、焼肉店を経営する友人を連れてやってきた母親が、台湾で支店を出すことを決めました。平出さんは台湾の支店出店のため、日本で半年間にわたって焼肉店経営を学び、台湾の輔仁大学に入学するまで一年間日本の焼肉店で働きました。「大学を卒業したら日本に帰って普通のサラリーマンになるだろうと考えていたので、飲食業に足を踏み入れるとは思いもよりませんでした」と平出さんは笑います。大学を卒業する前、大学3 年生の時に、思いがけず台北市の「東区」と呼ばれる繁華街で経営不振となっていた焼肉店を譲り受け、当時の仲間とワイワイ楽しみながらにぎやかでユニークな「乾杯」を立ち上げ、これからさまざまな課題が待ち受ける焼肉店経営の道を歩み始めたのでした。

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2. 平出さんの言葉には飲食ビジネスに対する情熱があふれています。台湾と日本の双方の血を引き、台湾の人の豪快さと日本の人の細やかな気遣いを兼ね備えています。

何でもいただき!
台北の多彩な酒と食の文化

平出さんの目には、台北はとても包容力のある街に映ります。「台北の人々は海外の料理を何でも受け入れ、何でも食べますよね。これはとても大事な文化だと思います」。平出さんは鍋料理を例に語ります。1980 年代から1990 年代ごろにかけ、鍋料理「火鍋」はわずか10 年ほどの間に飲食業界の主流となりました。台湾の昔ながらの料理である「薑母鴨(ショウガとごま油をベースにした煮込みアヒル肉の鍋)」や「焼酒鶏(酒と漢方食材を使った煮込み鶏肉)」のほか、中国東北地方がルーツの「酸菜鍋(白菜の漬物と豚肉の鍋)」、身体にいい漢方食材たっぷりのモンゴル風「蒙古鍋」、中国南方、四川風味のピリ辛「麻辣鍋」、日本風のしゃぶしゃぶ「涮涮鍋」、さらには最近流行の韓国風「プデチゲ」まで、さまざまな鍋料理が台湾ではそのルーツの地方の特色をうまく取り入れて融合され、広く人気を博しています。これは台北人の「何でも受け入れる」という気風を反映しているのではないかと平出さんは考えます。台湾と日本の酒文化も異なります。平出さんは、「台湾では『ご飯を食べること』と『酒を飲むこと』が別々のこととしてとらえられていて、もし今日の食事が酒席だということが分かれば、必死に飲まないといけないと思ってちょっと肩に力が入るみたいですね」と笑います。「乾杯」という言葉は中国語では盃を干して誠意と気迫を示すものです。一方、日本語の「カンパイ」は祝福の気持ちを示すものであって、「盃を干して敬意を示す」という中国語の意味合いとはやや違います。平出さんにとり、ご飯をいただくこととお酒を飲むことはリラックスできるハッピーなことであり、どちらもゆっくりと同時に進めながら、人と人との交流を楽しむものです。「楽しくご飯を食べ、酒を飲みながらおしゃべりする」―これが、平出さんが台北の人々と共有したい酒と食の哲学です。

6.2.3_Kigetsu季月鐵板懷石料理,結合頂級澳洲和牛與當季新鮮食材,每三個月更換一次菜單,同時具備懷石與鐵板燒的料理概念。.jpg
3. 鉄板懐石「季月」は、最高級のオーストラリア和牛と旬の新鮮な食材を使い、3カ月ごとにメニューを入れ替えます。懐石料理と鉄板焼きのコンセプトを両立させています。

子供の時の台湾料理のイメージをたずねると、平出さんは迷わず「とっても美味しい牛肉麺!」と答えます。台湾では牛肉を食する歴史は浅く、牛とともに田畑を耕していた農業が機械化されてからようやく普及しました。長くて60年から70 年といったところですが、牛肉麺はいまや海外の人々が目当てにする定番のグルメとなっています。特に台北市では全盛期には鄭州路の道沿いがすべて牛肉麺店で埋め尽くされるほどでした。台北市も幾度となく牛肉麺フェスティバルを行うほどですから、その人気ぶりがうかがえるでしょう。ところが気候風土や文化的な要素から、台湾の国産牛肉の生産は極めて少量です。輸入肉を選ぶのは消費者と飲食にかかわる経営者にとってはある種のハードルとなっています。平出さんは牛肉の大きなニーズをよく理解しながら、オーストラリアの畜産業者と関係を深め、良質でリーズナブルなオーストラリア和牛を輸入する一方、焼肉から鉄板焼き、串焼き、鍋料理まで日本の外食ブランドを台湾に誘致し、牛一頭のすべての部位を存分に生かします。より多くの人に牛肉料理の魅力を知ってもらい、将来的には同業者にもっと素晴らしい肉の選択肢を提供したいと考えています。

「社会に対して、適正なものを食べてもらうという大きな責任を負っていると考えています。安心で安全、そして美味しいものを食べれば気持ちも元気になり、明日も頑張ろうという活力になる。これはお客様に対する私の任務です」と平出さんは語ります。牛肉とそれに関連する技術を導入するだけでなく、台湾のよさも広めたいと願う平出さんは、台湾の豚肉や鶏肉は最高級の美味しさを備えていると言います。そこで、乾杯集団は、ラーメンの「一風堂」や「焼とりの八兵衛」を台湾で展開し、いずれも台湾産豚肉と当日さばいたばかりの地元の鶏肉を使い、台湾ならではの味を打ち出しています。「台北~東京日帰り生活圏」とも言うべき便利な時代に、平出さんは台北を日本の美食家に最も愛されるグルメタウンに押し上げたいと期待を込めます。

6.2.4_在季月(左)用過餐點後,甜點並不在鐵板前享用,而是移動至季月咖啡(右),在外場沙發區慢慢品嚐,也是平出莊司的慢食哲學之一。.jpg
4. 「 季月(」左)の食後のデザートは鉄板の前を離れ、カフェ「季月咖啡」(右)に移動してソファーエリアでゆっくりいただくことができます。これも平出さんのスローフード哲学の一つです。食後のデザートだけでなく、アフタヌーンティーも提供しています。

盃と皿の中に
見い出す人生の味わい

「新しい年は昼食で明けた」。『南仏プロヴァンスの12 か月』※がこの一文で始まるように、食は往々にして人の暮らしを代表するものです。盃が酌み交わされる間に私たちはさまざまな経験をし、人生の真理を悟り、味覚と人生の味わいを積み重ねていきます。青春の活力にあふれる「乾杯」、酸いも甘いも経験した円熟の「老乾杯」から、ゆるやかな時が流れる優雅なステーキハウス「KP 牛排小酒館」、お酒で友と交流するお酒スクール「乾杯SAKE 学苑」まで、平出さんが手掛ける事業は人生のさまざまな段階を反映しています。大学のころはバイクに乗り台北のあちこちを探索し、行き詰まったときには陽明山で温泉で心身を休め、結婚してからは自転車で市内をゆっくりめぐり、この街がだんだんと姿を変えていくのを見守っています。最近ではベビーカーを押しながら国父紀念館のあたりを散歩するのが一番幸せな時間だと言います。人生の歩みは少しゆったりしてきましたが、仕事への情熱は相変わらずです。乾杯は去年、台北から世界への一歩を踏み出し、上海に海外一号店をオープンしました。台湾人の妻を持つ平出さんは自分のことを「台商(台湾系ビジネスマン)」と自負し、世界に台湾発の日本の味を届けたいと意気込みを語ります。台北に住んで20年以上、学業、起業から、家族を持つまで、平出さんは輝かしい青春の日々をすべてこの大地に惜しみなく注ぎ、数え切れないほどの縁が血と縁で結ばれたつながりをさらに深めていきます。台北、平出さんにとりそれはもはや遠くにある異郷ではなくなっているのです。

※ 河出文庫版『南仏プロヴァンスの12か月』より、ピーター・メイル著、池央耿訳。

飲酒は適量を心がけましょう。健康に危害を及ぼすおそれがあります。
 

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