TOP メインコンテンツセクションに行く

台北観光サイト

東南アジアの移住労働者が北で暮らす背景 (TAIPEI Quarterly 2020 春季号 Vol.19)

アンカーポイント

発表日:2020-03-13

1997

TAIPEI #19 (2020 春季号)

東南アジアの移住労働者が北で暮らす背景

文= 張雅淳
編集= 下山敬之
写真= 林冠良、One-Forty


台北の移住労働者の数は、労働部の統計によると2018年に70万人を超えました。今日の台湾人の33人に1人は移住労働者であり、その大半が東南アジア出身です。NPO「One-Forty」の設立者である陳凱翔(チェンカイシャン)さんと「燦爛時光:東南亜主題書店」と「四方報」の創業者である張正(ジャンジェン)さんは、長い間移住労働者の育成と支援に従事してきました。2人の対談から移住労働者が台北で暮らす背景を探っていきます。TAIPEI 春季号 2020 Vol.19--東南アジアの移住労働者が北で暮らす背景▲One-Fortyは東南アジアの移住労働者に対し、中国語と様々な技術を学ぶ場を提供しています。(写真:One-Forty)。

台北にある東南アジア移民が集まる場所
台北で東南アジアの労働者を見かける場所といえば、台北駅近くの「インドネシア人街」、台北清真寺、市内の公園などです。

各国籍ごとに細分化するとベトナム移民は以前、木柵( ムーザー) の安康市場( アンカンシューチャン) に集中していました。ここにはグルメ、占い、宝石、美容などのお店が全て揃い、20軒の屋台のうち15軒はベトナム人が経営をしていました。「この市場は2006年9月の『四方報』創刊時に解体されたため、創刊号が安康市場の記念号になりました。」と張さんは振り返ります。また、20年ほど前には内湖( ネイフー) にあるレストラン「銘記越南美食」周辺にベトナム人移民が多く集まっていました。

フィリピン人移民については、二人揃って中山北路 ( ジョンシャンベイルー) の「リトル・フィリピン」として知られる聖クリストファー教会周辺と、その近くにある「金萬萬名店城 ( ジンマンマンミンディエンチャン)」、EEC、RJ スーパーマートなどを挙げました。いずれも東南アジアらしさが色濃く反映された場所です。

東南アジア研究の始まり
張さんの本業は新聞記者で、記者の勘によって20年も前から台湾は移民に関する報道が足りないと感じていました。「移住に関するニュースを読んだ時、報道に偏りを感じました。雇用主と移住労働者の問題を取材する際、話を聞くのは雇用主だけで移住労働者には発言権がありません。そのため、真相はわかりませんでした。」

彼がこの移住労働者問題に関わるようになったのは、国立曁南国際大学東南アジア研究センターに入学したことがきっかけです。「これらの研究は役に立つと思い、メディアの専門知識を活かして、2006年に『四方報』を設立しました。」と張さんは話します。TAIPEI 春季号 2020 Vol.19--東南アジアの移住労働者が北で暮らす背景▲東南アジアの各言語で発行されている『四方報』は、移住労働者の生活がより豊かで楽しくなること目的に、2006年に創刊されました。

東南アジアの言語で書かれ、移住労働者をメイン読者とする『四方報』を発行する傍ら、張さんは東南アジア労働者問題に対する関心と情熱を注ぎました。2011年には台湾に嫁いだ外国人女性とその子供を帰郷させる「外婆橋」という里帰りプロジェクトを行った他、2013年には東南アジアの音楽紹介番組「唱四方」制作、2014年には移民文学賞の設立など、移住労働者を労い、自身のアイデンティティに誇りが持てるよう支援する活動を行いました。

移住者向け台北ビジネススクール設立
NPO 団体One-Forty を設立した陳さんが移住者問題に関わり始めたきっかけは大学の卒業旅行でした。半年の旅行のうち最初の3ヶ月はインドでボランティア、その後はフィリピンで多くの友人を作りました。しかし、帰国後もフィリピンのことが忘れられず、聖クリストファー教会の周辺を頻繁に訪問し始めました。TAIPEI 春季号 2020 Vol.19--東南アジアの移住労働者が北で暮らす背景▲One-Fortyは東南アジアの移住労働者に対し、中国語と様々な技術を学ぶ場を提供しています。(写真:One-Forty)。

「最初は移住労働者の支援など考えていませんでしたが、彼らに興味を持ってからは普段の生活などを知りたいと思い始めました。かつて日曜日に聖クリストファー教会に足を運んだ際、周囲からはタガログ語しか聞こえず、台湾人は私だけでした。」その後、陳さんはフィリピン人労働者と友達になり、移住労働者の話を聞いて、彼らのために何ができるかを考えるようになりました。

それから移住労働者ビジネススクールの構想が固まり、ビジネスの基礎概念を教え始めました。その結果、移住労働者たちは休日に勉強して自らの価値を高め、帰郷後に開業できるまでに成長しました。こうした経験はOne-Forty設立にも関係しています。

街中に変化の兆し
二人は昔に比べると現在の移住労働者の待遇は大幅に改善され、これらの問題に関心を持つ団体も増えた街中に変化の兆しと言います。社会情勢に合わせて政府が即時規定を変えることは難しいですが、移民労働者向けた語学力向上や職業選択、生活能力向上のためのカリキュラムは徐々に確立されつつあります。「台北在住インドネシア人は、休日のイベントやセミナーを充実していると感じるでしょう。しかし、これらは移住労働者が理解できなければ意味がありません。以前はイベントのポスターが中国語表記になっていて内容が伝わりませんでした。」と陳さんは話します。TAIPEI 春季号 2020 Vol.19--東南アジアの移住労働者が北で暮らす背景▲専門分野もきっかけも異なる二人が、台湾の移住労働者のために力を尽くしています。

近年になり、多くの企業が東南アジア移住者のニーズを理解し始め、彼らを対象とした活動が増えました。例えば、台北101はインドネシア語で書かれた燦爛時光の寄贈に応じてくれたので、インドネシア人にも読んでもらえるようになりました。台北国立故宮博物院はOne-Forty と協力して移住者向けに東南アジアの言語によるガイドサービスを始めました。

お互いが生活しやすい未来を目指して
張さんは過去に燦爛時光の関係で年間約300回のセミナーを開催しました。フィリピンについて話をした際、ある若者が「先生がお互いが生活しやすい未来を目指して過去にしてきた様々な活動によって台湾は良くなったと思いますか?」と質問しました。張さんは考え、こう答えました。「セミナー参加者がフィリピンのことを「ほんの少し」でも理解できたなら、10人いる会場では10倍の学びになります。それを300箇所で話せば3000倍の学びになります。」TAIPEI 春季号 2020 Vol.19--東南アジアの移住労働者が北で暮らす背景▲燦爛時光書店は台湾の人々が東南アジアや移住、外国人労働者について理解するための場です。

陳さんによると、One-Forty は2015年から現在にかけて、2つの主要ミッションを実行してきました。1つは移住労働者の育成カリキュラム、もう1つは台湾人に移住労働者のことを知ってもらい相互理解を生み出すことです。「この2つは方向性が違うように見えますが、どちらも非常に重要なミッションなので両方とも継続して進めていきます。」

それを聞いて張さんも「両方同時にやる必要があると思います。」と賛同しました。張さんは本棚から厚手の『四方報』合併号を取り出し、話を続けます。「移住労働者が母国語で雑誌を読めることが『四方報』創刊時の目的でしたが、台湾人の移住労働者に対する接し方の改善と普及を進め、移住労働者たちの生活を向上させなければいけないと気づきました。」彼ら2人は台湾人と移住労働者が共生できる社会の構築を目指して、移住労働者のために率先して行動を起こし続けています。
 
TAIPEI 春季号 2020 Vol.19--東南アジアの移住労働者が北で暮らす背景陳凱翔
NPO「One-Forty」共同設立者兼NGO スタッフ。大学卒業後、フィリピンに旅行し、東南アジアの文化に触れたことをきっかけに東南アジアの移住問題に関心を持つようになる。台湾において移住労働者が専門スキルを習得できる社会を目指している。
TAIPEI 春季号 2020 Vol.19--東南アジアの移住労働者が北で暮らす背景張正
メディア編集者。長年にわたり東南アジアの移住と外国人労働者問題を取材している。自らが編集長を務める『四方報』を創刊し、現在では中央放送局の
総局長を務めている。「燦爛時光:東南亜主題書店」責任者。

関連写真

最近の人気記事

Top