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魅力的な絵本の世界へ (TAIPEI Quarterly 2020 夏季号 Vol.20)

アンカーポイント

発表日:2020-06-12

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TAIPEI #20 (2020 夏季号)

魅力的な絵本の世界へ

文/ Catherine Shih
編集/ 下山敬之
写真/ Yenyi Lin, 樹火紀念紙博物館, MyTaiwanTour


台北のMRT 古亭( グーティン) 駅から歩いてすぐの場所にある質素ながらも趣のある木造のお店には、ヨーロッパやカナダの各地から集められたカラフルな絵本がずらりと並んでいます。中に足を踏み入れると、たくさんの鮮やかな絵本の表紙が目に飛び込んできます。この童里絵本洋行( トンリーホィベンヤンハン) というお店は台北でも珍しい絵本専門店であり、フランスやスペイン、ポーランドなどヨーロッパ各国の絵本が販売されています。フランス語の店名は「Maison Temps Rêves( 夢の時間)」で、名前の通り子供から大人まで壮大な夢が見られる場所です。0415-童里繪本洋行-24 2-Edited▲童里絵本洋行に一歩足を踏み入れると色とりどりの表紙が目に飛び込んできます。

童里絵本洋行の原点
オーナーの林幸萩( リンシンチョウ) さんは淡江大学でフランス語を専攻していて、フランスの書店にも非常に詳しい方です。「私は大学を卒業してから14年間、信鴿法国書店というお店で働き、一時期は転職も考えましたが、書店業界からどうしても離れられませんでした。」

絵本業界へ進んだ理由は、「20年前から絵本をコレクションするようになりました。絵本は個人的な趣味ですが、絵本を読むことは芸術作品の鑑賞に似ていて、飽きることがありませんでした」と答えます。台湾の学生の多くはアメリカ、イギリス、日本の絵本を読んで育ちますが、林さんの環境は少し違いました。「私はヨーロッパの絵本に心が惹かれました。他の国の絵本はハマらず、面白さが理解できませんでした。」

信鴿法国書店で経験を積んでいくうちに、本の仕入れを手伝い、毎年パリで開催される本の展示会に足を運ぶ機会が増えました。「当時は、好きなものが何でも買えたので楽しかったです」と林さんは笑いながら振り返ります。「現在は、毎月のおすすめを厳選したり、季節に合わせた本を選考するなど計画を立てなければいけません。また、フランスの絵本を取り扱う海外の出版社の大半は、お試しや返品制度などがないのでとても大変です。」0415-童里繪本洋行-45-Edited▲オーナーの林さんは絵本が大好きで、その魅力を存分に語ってくれました。

潮州街で開店
林さんは信鴿法国書店を退職する際に、人生の方向性を変えたいと考えていた時期があったそうです。「私は今まで本屋のことしか知りませんでしたが、40歳になった時、何か違うことがしたいと思いました。」 そこで2015年に一念発起してオンライン書店を開設することを決めました。この間、デザートショップやデザインスタジオなどでも期間限定のポップアップストアを定期的に開催し、長いものだと国立台湾師範大学近くの旧香居で5 週間に渡りイベントを行いました。そして2018年、友人が潮州街( チャオジョウジエ) に貸店舗を所有していたことから実店舗のオープンに踏み切りました。0415-童里繪本洋行-38-Edited▲店内では低めの本棚を利用し、アートギャラリーのような雰囲気を作り出しています。

「私はお店から近い中正区で育ちました。台北植物園近くの学校に通っていましたが、中学校のクラスメイトは大半がこの近くに住んでいたのでよく遊びに来ていました。この物件は元々、友人がレザークラフトのお店を始める予定でしたが、スペースが大きすぎたために、童里絵本洋行が誕生しました。」と林さんは話します。

絵本屋として格闘の毎日
「書店での就業から時間が空いたので実店舗での作業に慣れるまでは大変でした。本屋は開店前や閉店後の作業が多いですし、本を入荷してもすぐに陳列棚に並べることはできません。掃除、整頓、包装、写真撮影、本のカバーにある紹介文の書き直し、さらには中国語への翻訳など細心の注意を払いながら行うルーティンワークが多いのです。また、高コスト低利益の業界なので、経営者の大半は敬遠します。」絵本は子供向けと思われがちですが、ヨーロッパの絵本に年齢制限はなく、誰でも楽しめると林さんは話します。「ヨーロッパの芸術や絵本の素晴らしい点は、子供以外でも楽しめることです。実際、子供と大人のジェネレーションギャップ解消に役立ちます。」絵本はその多面性ゆえに、面白い本としても楽しめますし、読み手の視点によっては精巧な芸術作品にもなります。0415-童里繪本洋行-57-Edited▲店内では低めの本棚を利用し、アートギャラリーのような雰囲気を作り出しています。

また、フランスの絵本の多くは、異なる国籍のイラストレーターと作家がコラボして出版するため、独特な文化がフランスで形成されています。「台湾ではイラストレーターと作家がどちらも台湾人であったり、さらには同郷であるケースも多いです。しかし、海外ではイラストレーターがスペイン人、絵本作家はイタリア人というようにクリエイティブの世界に国境はありません。」続いて林さんにお気に入りの作品を尋ねました。「個人的にはベンジャマン・ラコンブ作画、セバスティアン・ペレーズ原作の「フリーダ 切り絵でつむぐ9つの物語」という絵本が好きです。ラコンブ作品の多くはフリーダ・カーロの作品がベースですが、彼は独自のスタイルと代名詞である蝶を表現に加えています。死、愛、性、動物などの難しいテーマも含めて、実際に彼女の人生における重要な要素を多数取り入れています。」0415-童里繪本洋行-49-Edited
業界内で異彩を放つ
台湾で唯一ヨーロッパの絵本を専門に取り扱う童里絵本洋行はユニークな書店で、林さんに競合店との対抗策を尋ねると競合店はないと返ってきました。「真面目な話、このようなニッチな業界はかなり大変です。製品に対する消費者の意識の構築、刺激、成長に多くの時間をかける必要があります。基本的には自分で市場を開拓することが不可欠です。」

昔から芸術よりも学業成績や試験結果を重要視する台湾の社会では特に大変だと林さんは語ります。「当店のお客様は、お子さんを連れたご家族ではなく、独身の方や若い方がほとんどです。取り扱っている本の平均価格はかなり高く、視覚芸術は重要ではないと思われている保護者の方も多いので、台湾の一般家庭にお届けするのは困難です。」しかし、このような困難に直面しながらも、林さんはあらゆる人たちに絵本を広めるようと全力を尽くしています。地元のアーティストと共に作品展を開き、店内で読書会を開催することで芸術が台湾の人々の暮らしの一部になることが林さんの望みです。「新しい絵本をわざと家に置いて、息子たちが自主的に読むか試したこともありました。本を読んだ後に感想を話しに来てくれた時は、どこの家庭でも幼い頃から美意識が養えると証明できたので心が晴れた気持ちになりました。」0415-童里繪本洋行-52-Edited▲林さんの絵本に対する情熱が絵本の持つ芸術性を広めるための原動力になっています。

また、自身のお子さんのように人々の意識を変えるために自身のお店でヨーロッパの絵本に関するセミナーやワークショップを定期開催しています。「時々、著名な講師をお招きして読者の皆さんと絵本について討論することもあります。読者がより理解しやすいようにストーリーや作品を分けて解説しているので、文化交流や芸術交流の促進になっています。」

来店す台湾へ来られる方へのアドバイス
林さん自身に外国人の友人が多いこともあり、お店にはフランス、シンガポール、韓国、香港、日本などから来るお客さんも多いそうです。「面白いことに海外からのお客様の多くは信義区のような場所を避けます。都会らしい場所よりも万華区や中正区のようなレトロでクラシックな建築物やローカルな手工芸品のある地域を好むので、当店のようなお店にも足を運んでくれます。付近には見たり、体験して楽しめるスポットが多いので、来店された方には地元のグルメや、樹火紀念紙博物館といったローカルな芸術スポットを紹介しています。台北は多くの人たちにとって真の文化と芸術の中心と言える場所です。」と林さんはアピールします。taipei-attraction-bopiliao-historic-block-3▲清朝時代からの歴史的特色を残している台北萬華区は、多くの観光客が訪れる人気のスポットです。(写真/MyTaiwanTour )
每季一紙-Edited​​​​​​​▲台湾独自の紙の博物館である樹火紀念紙博物館では様々な製紙に関する体験活動を行っています。(写真/樹火紀念紙博物館)

将来のビジョン
今後、台湾の絵本を海外へ普及させる方向で活動するかを尋ねたところ、「将来的にはそうなるかもしれませんが、今のところはまだ考えていません。良い絵本を作るためには、イラストとストーリーどちらも重要ですが、2つを両立させることは難しいです 。台湾の学生の多くは、視覚芸術に触れる機会が少ないため大学入学後や大人になってから学び直さなければいけません。こうした問題も私たちが台湾社会で果たさなければならない重要な役割の一つです。」と答えてくれました。

絵本は子供が読む本と思われがちですが、実際には子供から大人まで幅広く楽しめるものであると林さんは強く言います。「せっかく読むなら単なる絵本ではなく作品として考えて欲しいと思っています。そういう思いが強くあったので、お店を構える際には、お店を本で埋め尽くさないように注意し、アートギャラリーのような感じにしました。」こうした林さんの思いが詰まったお店は、入った瞬間から出る瞬間まで絵本の世界観で魅了し続けてくれます。


童里絵本洋行Maison Temps Rêves
🏠 大安区潮州街15 号
🕙 12:00 ~ 19:00 ( 火曜 - 金曜)、11:00 ~ 21:00 ( 土曜、日曜) | 月曜定休
☎️ (02) 2391-8676
🔗 maisontempsreves.com

樹火紀念紙博物館
🏠 中山区長安東路二段68号
🕙 9:30 ~ 16:30 (日曜定休)
🔗 suhopaper.org.tw

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