発表日:2021-07-02
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TAIPEI #24 (2021 夏季号)
ローカル食材の美学を尊重台北のスローフード精神
文:田育志
写真:張晋瑞
編集:下山敬之
近年、世界では「スローフード」という概念が注目を集めています。スローフードは「原点回帰」の精神を強調し、消費者に過去の飲食文化に目を向けるよう伝える考え方です。ここ数年で台北でもこの精神が広がりはじめました。かつてイタリアのスローフード大学(UNISG)で学んだスローフード・ドリンクの専門家である周郁華(ジョウユーホァ)さんは、台湾で10人に満たない Certified Cicerone® の認証を受けたビールソムリエです。また、スローフードの精神をローカル食材と融合させ、じっくりと手間をかけた料理、丁寧に味わう飲食ライフを台北で普及させています。
スローフードのスローガン: Good、Clean、Fair
「スローフードは、ゆっくり食べることではなく、ファーストフードの対になる概念です」と周さんは話します。スローフードは、反ファーストフード文化の精神の中にある「原点回帰」から始まり、ファーストフードが生まれる前の飲食習慣へ戻ろうとする考え方です。
スローフード文化は、その発展とともに「Good、Clean、Fair」という3つのスローガンを形成しました。「Good」とは美味しさを指します。いかに食材を理解し、どう処理するかで料理の質は変わるので、料理人の魂が重要です。「Clean」は食材の生産過程において、環境にやさしく、持続性を持っていることを指します。「Fair」は生産者が得るべき報酬を得ているか、公平な扱いを受けているかを意味しています。
▲有機農法で作られた小規模農家のワインを広めることも、スローフードの概念に沿った活動であると周さんは考えています。
「このスローガンは互いに影響し合うので、明確に区分することは難しいです」。周さんによると、これまでの科学肥料を使用したブドウ栽培は、農家の体にとって有害で、環境汚染も引き起こしてきました。しかし、「自然酒」であれば、有機農法で栽培されたブドウを醸造し、品質の高いお酒を作るだけでなく、環境にもやさしく、農家の労働条件も改善されます。これこそがスローフードのスローガンを総合的に体現した新しい飲食文化の形です。
こうしたスローフードの概念は飲食の消費が盛んな台北であれば、容易に普及と定着ができると周さんは考えています。その理由としては、台北はレストランの種類や店舗の数が多く、消費者も多いこと。スローフードから派生した料理もあるので、試してみたいと考える人や受け入れる層も少なくないためです。
台湾の食材に回帰する
「台湾が実践するスローフードの精神は、『ローカル食材』に回帰するです」。有名レストラン「RAW」のシェフである江振誠さんがローカル食材の使用を提唱しました。それにより、台湾の飲食業界でも「台湾の味」、「現地の料理」とは何かが日に日に議論され、台湾に元々あった食べ物を再び食卓に戻そうという動きが始まりました。これは図らずもスローフードの原点回帰の精神と一致しています。
近年では、ファインダイニングをアピールするレストランが次々と台北でオープンしています。周さんによると、ファインダイニングは価格がやや高いものの、これらのレストランのシェフはローカル食材の使用を考えています。仁愛路の路地裏にある「Embers」のシェフであるWesさんは、先住民の飲食文化をコンセプトにメニューを考案しました。例えば「海耳」という料理は、アミ族が海辺で拾っていた貝類を表現した一品です。他にも「拾八豆」は豆花をベースに、干し豆腐、豆枝、豆豉、豆酥といった大豆製品を取り入れることで、ブヌン族の種を保護する伝統をオマージュしています。また、東区の「Muzeo」では、アスパラガスの代わりにキャベツを使用し西洋料理の付け合わせにしています。
▲「Embers」の「拾八豆」は、各種の豆製品をベースに、ブヌン族の料理の多様性を表現しています。
高級レストランの「祥雲龍吟」でも、ローカル食材を使用しています。「これまで高級レストランといえば、フランスのブルーオマール、北海道のホタテといった輸入食材を使用するイメージがありました。でも今の新世代のシェフは、消費者のお金がよりローカル食材に使用されるようPRをしています」ローカル食材が洗練されていくと、より多くの人たちにその価値が認識される。これもまた「Good」というスローガンを体現した動きであると周さんは考えています。
▲「Embers」のシェフであるWesさんは、アミ族が拾っていた貝類をメインに、麦の香りあふれるビールを組み合わせて、ローカルの味わいのコラージュを作り上げました。
また、台北ではファーマーズマーケットが盛んですが、これもスローフード文化と関係があります。例えば、消費者が小規模農家の有機食材を購入することで、お互いに中間業者のマージンなしで直接商品の売買ができるので、「Good」、「Clean」、「Fair」全ての概念に一致します。
▲「Embers」のシェフであるWesさんは、アミ族が拾っていた貝類をメインに、麦の香りあふれるビールを組み合わせて、ローカルの味わいのコラージュを作り上げました。
それぞれのスタイルでスローフードを支持
周さんは自分なりのスローフード精神の実践方法を持っています。彼女がこれまで企画したイベントでは、いずれも自然酒、小規模農家のワイナリー、現地の酒造メーカー、現地の原生品種を使用して醸造した製品をセレクト。昨年末には「遊牧バー」というタイトルのコラボ企画をスタートしました。これはセレクトしたお酒を期間限定で提携レストランにて取り扱い、ローカル食材とお酒を組み合わせて提供する企画です。初回の場所となったレストランは台北のEmbersでした。
▲周さんが始めた「遊牧バー」は、各有名レストランとのコラボやローカル食材の紹介を通して、スローフードの精神が広まってほしいという願いが込められています。
初回の遊牧バーの感想について、周さんはこう述べています。「シェフのWesさんがの長らく追求してきた『ローカル』、『台湾の味』に対するイマジネーションに応え、今回は「自分の味をコラージュ」というテーマにしました。台湾の飲食習慣でよく見られる氷抜き、砂糖少なめ、辛めなどのように、お酒の味もカスタマイズできるようにしました」。そうして生まれたのが、「苦味、麦、酸味、フルーティー、スパイシー」という5種類の香りのビールベースで、ゲストが自由にアレンジできるようにしました。
▲周さんは、様々な食べ物の香料をコラージュし、フレーバーの異なる6種類の「アレンジビール」を作り出しました。
遊牧バーにおいて、周さんのお酒選びの巧みな発想は、消費者たちに驚きを与えました。「私が土肉桂、フリーモントの皮、原生のアオモジで作った『クリスマス』というフレーバーを出した時に、お客様はとても不思議そうにしていました。皆さん、それまでは台湾の土肉桂の味と一般的な肉桂の違いを知らず、初めてアオモジを口にした方もいました」。
「私は台北はとても自由な発想を持った都市だと思います」と周さんは述べます。自由であるからこそ、発想の幅も広がる。すでに多くのシェフが自分の得意とするスタイルで、スローフードの概念、あるいはローカル食材を料理に取り入れています。消費者がスローフードを支持する方法は、ファインダインのレストランに行くだけではありません。小規模農家のミルクやフェアトレードのコーヒー豆を使用した街角のカフェで、カフェラテを飲むことでも貢献ができます。
ローカル食材の美学を尊重台北のスローフード精神
文:田育志
写真:張晋瑞
編集:下山敬之
近年、世界では「スローフード」という概念が注目を集めています。スローフードは「原点回帰」の精神を強調し、消費者に過去の飲食文化に目を向けるよう伝える考え方です。ここ数年で台北でもこの精神が広がりはじめました。かつてイタリアのスローフード大学(UNISG)で学んだスローフード・ドリンクの専門家である周郁華(ジョウユーホァ)さんは、台湾で10人に満たない Certified Cicerone® の認証を受けたビールソムリエです。また、スローフードの精神をローカル食材と融合させ、じっくりと手間をかけた料理、丁寧に味わう飲食ライフを台北で普及させています。
スローフードのスローガン: Good、Clean、Fair
「スローフードは、ゆっくり食べることではなく、ファーストフードの対になる概念です」と周さんは話します。スローフードは、反ファーストフード文化の精神の中にある「原点回帰」から始まり、ファーストフードが生まれる前の飲食習慣へ戻ろうとする考え方です。
スローフード文化は、その発展とともに「Good、Clean、Fair」という3つのスローガンを形成しました。「Good」とは美味しさを指します。いかに食材を理解し、どう処理するかで料理の質は変わるので、料理人の魂が重要です。「Clean」は食材の生産過程において、環境にやさしく、持続性を持っていることを指します。「Fair」は生産者が得るべき報酬を得ているか、公平な扱いを受けているかを意味しています。
「このスローガンは互いに影響し合うので、明確に区分することは難しいです」。周さんによると、これまでの科学肥料を使用したブドウ栽培は、農家の体にとって有害で、環境汚染も引き起こしてきました。しかし、「自然酒」であれば、有機農法で栽培されたブドウを醸造し、品質の高いお酒を作るだけでなく、環境にもやさしく、農家の労働条件も改善されます。これこそがスローフードのスローガンを総合的に体現した新しい飲食文化の形です。
こうしたスローフードの概念は飲食の消費が盛んな台北であれば、容易に普及と定着ができると周さんは考えています。その理由としては、台北はレストランの種類や店舗の数が多く、消費者も多いこと。スローフードから派生した料理もあるので、試してみたいと考える人や受け入れる層も少なくないためです。
台湾の食材に回帰する
「台湾が実践するスローフードの精神は、『ローカル食材』に回帰するです」。有名レストラン「RAW」のシェフである江振誠さんがローカル食材の使用を提唱しました。それにより、台湾の飲食業界でも「台湾の味」、「現地の料理」とは何かが日に日に議論され、台湾に元々あった食べ物を再び食卓に戻そうという動きが始まりました。これは図らずもスローフードの原点回帰の精神と一致しています。
近年では、ファインダイニングをアピールするレストランが次々と台北でオープンしています。周さんによると、ファインダイニングは価格がやや高いものの、これらのレストランのシェフはローカル食材の使用を考えています。仁愛路の路地裏にある「Embers」のシェフであるWesさんは、先住民の飲食文化をコンセプトにメニューを考案しました。例えば「海耳」という料理は、アミ族が海辺で拾っていた貝類を表現した一品です。他にも「拾八豆」は豆花をベースに、干し豆腐、豆枝、豆豉、豆酥といった大豆製品を取り入れることで、ブヌン族の種を保護する伝統をオマージュしています。また、東区の「Muzeo」では、アスパラガスの代わりにキャベツを使用し西洋料理の付け合わせにしています。
高級レストランの「祥雲龍吟」でも、ローカル食材を使用しています。「これまで高級レストランといえば、フランスのブルーオマール、北海道のホタテといった輸入食材を使用するイメージがありました。でも今の新世代のシェフは、消費者のお金がよりローカル食材に使用されるようPRをしています」ローカル食材が洗練されていくと、より多くの人たちにその価値が認識される。これもまた「Good」というスローガンを体現した動きであると周さんは考えています。
また、台北ではファーマーズマーケットが盛んですが、これもスローフード文化と関係があります。例えば、消費者が小規模農家の有機食材を購入することで、お互いに中間業者のマージンなしで直接商品の売買ができるので、「Good」、「Clean」、「Fair」全ての概念に一致します。
それぞれのスタイルでスローフードを支持
周さんは自分なりのスローフード精神の実践方法を持っています。彼女がこれまで企画したイベントでは、いずれも自然酒、小規模農家のワイナリー、現地の酒造メーカー、現地の原生品種を使用して醸造した製品をセレクト。昨年末には「遊牧バー」というタイトルのコラボ企画をスタートしました。これはセレクトしたお酒を期間限定で提携レストランにて取り扱い、ローカル食材とお酒を組み合わせて提供する企画です。初回の場所となったレストランは台北のEmbersでした。
初回の遊牧バーの感想について、周さんはこう述べています。「シェフのWesさんがの長らく追求してきた『ローカル』、『台湾の味』に対するイマジネーションに応え、今回は「自分の味をコラージュ」というテーマにしました。台湾の飲食習慣でよく見られる氷抜き、砂糖少なめ、辛めなどのように、お酒の味もカスタマイズできるようにしました」。そうして生まれたのが、「苦味、麦、酸味、フルーティー、スパイシー」という5種類の香りのビールベースで、ゲストが自由にアレンジできるようにしました。
遊牧バーにおいて、周さんのお酒選びの巧みな発想は、消費者たちに驚きを与えました。「私が土肉桂、フリーモントの皮、原生のアオモジで作った『クリスマス』というフレーバーを出した時に、お客様はとても不思議そうにしていました。皆さん、それまでは台湾の土肉桂の味と一般的な肉桂の違いを知らず、初めてアオモジを口にした方もいました」。
「私は台北はとても自由な発想を持った都市だと思います」と周さんは述べます。自由であるからこそ、発想の幅も広がる。すでに多くのシェフが自分の得意とするスタイルで、スローフードの概念、あるいはローカル食材を料理に取り入れています。消費者がスローフードを支持する方法は、ファインダインのレストランに行くだけではありません。小規模農家のミルクやフェアトレードのコーヒー豆を使用した街角のカフェで、カフェラテを飲むことでも貢献ができます。
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