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古民家に注ぐ愛 (TAIPEI Quarterly 2022 春季号 Vol.27)

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発表日:2022-03-22

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TAIPEI #27 (2022 季号)


古民家に注ぐ愛

文: Elisa Cohen
編集: 下山敬之
写真: Yenyi Lin、什木工地


大都市である台北には様々な職種の人たちが集まっています。中でもそれぞれの分野における職人たちの活躍は、街に活気をもたらします。今回はもともと大工としてキャリアをスタートさせたデザイナーの江鳴謙(ジャン・ミンチエン)氏にインタビューを行い、自身の手で改装したレンガ造りの古民家や運営している講義、台北に点在する古民家の精神などを伺いました。

対話のキッカケを提供
江氏が運営する。什木工地は、南港区中南街にある古い赤レンガ造りの家で開催されている建築講座です。屋内には様々な機械、木材、製作途中の製品が整然と並べられています。「私は大工の仕事風景を見て育ったため、ずっと憧れていました。大人になったら自分もやってみたいと思っていました」と江氏は振り返ります。江氏は見習いから始め、職人としての伝統的な修行を積み、親方、ゼネコンと仕事を変え、最終的にデザイナーとなりました。

1.5000px-_MG_9966 (Copy)▲厳格な印象の江鳴謙氏ですが、大好きな木造家屋と古民家について語る時は穏やかな表情を見せます。

フリーのデザイナーとなった後は、興味を持ったお客さんに声をかけて、一緒に仕事をすることもあったそうです。その中で、人にものを教えることが上手と言われ、建築に関する教室を開くことを勧められました。そうして人々と接する中で、彼は自分が職人の仕事や技術を理解しておらず、ギャップが生じていることに気付きます。

「『仕事を受ける人』と『仕事を依頼する人』とのギャップを埋めたいと思いました」と江氏は言います。そこで彼は、セメントメーカー、鉄工所、陶器モザイクのアーティストなど、さまざまな分野の第一線で活躍する職人たちを招き、講演または作品の紹介をして頂くなどして、知識の交換を行いました。「職人の声が取り上げられることはほとんどなく、その多くは見過ごされてしまいます。なので、対話を促せる場を作りたいと思いました」。このようにして什木工地は、職人が自己表現をしつつ、一般人が質問をしながら彼らについて学べる場となりました。

2.5000px-_MG_9991-Edited (Copy)3.5000px-_MG_9904-Edited (Copy)▲什木工地は建築に関する教室であると同時に、江氏自身によるリノベーションプロジェクトの一環でもあります。

職人の仕事の仕組み
「この分野の仕事は、実はとてもロマンチックです」と江氏は言います。台北の職人の生活は規則正しく、毎日朝7時に出勤し、8時には現場に到着して仕事を開始します。16時半になると目下の仕事を片付け始め、17時には退社。その後は帰宅して家族と過ごすという、平凡ながらも充実した日常です。

大工は通常、建設現場におけるリーダーとなり、石工や鉄工など他の職人の仕事を統括する必要があります。江氏がデザイナーに転身したのもこれが理由です。「現場は厨房のようなものです。焼く、揚げる、盛り付けるという作業工程をそれぞれの担当が行うように、建築にも石工や配管、電気工事と異なる分野の人たちが個々で行う作業もあれば、共同で行う作業もあります。デザイナーの役割は、あらゆる要素を統合し、プロセスを最適化して、効率を向上させることです」と彼は言います。

4. 5000px-_MG_0005-Edited (Copy)▲江氏は大工作業がいかに注意の必要な仕事であるか実演をしてくれました。

江氏は職人たちによる講義を企画するほか、北投国中の非常勤講師でもあり、週1回専門的な建築の授業を担当しています。また、什木工地は台北周辺の学校が利用する校外教室でもあり、生徒たちはここで木工機械の操作方法や安全性などを学び、建築に関する様々な専門技術を習得しています。

5. 164458482_2907355632855848_8354642166057443612_n-Edited-Edited (Copy)▲什木工地は時折、郊外教室へと姿を変え、学生たちに建築の基礎知識を教えています。(写真/什木工地)

台北古民家の魅力
江氏は仕事柄、台北の古民家の改修プロジェクトにたびたび参加し、歴史的・文化的観点から台北の街を眺めてきました。

什木工地のある中南街については、「ここは南港地区で最初に開発された通りで、以前は荷車が通るような道だったんですよ」と話します。

この通りはかつて、山で採れた石炭や包種茶を輸送する経路でした。什木工地の建物はもともと80年以上にわたり茶屋として使われていたもので、伝統的な店舗付きの住宅を改装したものです。近隣に並ぶ古い家屋もその一軒一軒が通りの歴史を物語っています。近くには赤レンガ造りの闕家古厝と周家古厝があるほか、数多くの店舗付き住宅が残っていて、特徴である少し突き出たベランダが散見されます。

南港車站の近くにあるPOPOP台北は、古い建物を改装したイベントスペースです。2020年にできたこの施設は、台北蚤之市とFuntastyBazaarの会場として利用されています。江氏は改装には参加していないものの、什木工地をここに移設し、職人たちの体験を世の中に広げていってほしいと打診を受けた経歴があります。

江氏の活動の中で注目すべきは中正区寧波西街にある豊仁薬局の改装です。木枠のガラス窓やレトロなキャビネットを取り入れ、昔ながらの薬局のような、温もりのあるノスタルジックな雰囲気を創出。このプロジェクトは2018年に「台北老屋新生大奨」の銀賞を受賞しました。

6.IMG_0254-Edited (Copy)▲豊仁薬局には古民家の素朴な美しさが残っています。(写真/什木工地)

「もともと古民家が大好きでした。そこに既存の資源や素材を活かしつつ、自分のスタイルを組み込み、新しい価値を吹き込むことが楽しいです」と江氏は古民家への愛情を熱く語ってくれました。現在は、大同区の南福式古民家や万華区の糖廍文化園区などの改修プロジェクトに参加しています。

江氏は毎日、古民家の観察に出かけ、古いレンガやタイルから地域の物語を紹介するなど、台北の古民家文化の周知により深く携わりたいと考えています。また、それぞれの分野の専門技術を究める職人たちとも協力し、より多くの人にその知恵や古民家の温もり伝えるとともに、台北の昔ながらの精神に触れられる機会を作っていくことが目標だそうです。

 

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