発表日:2022-12-29
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TAIPEI #30 (2022 冬季号)
音楽のリバイバル
CDとカセットテープの再興
文:Catherine Shih 編集:下山敬之 写真:Samil Kuo
音楽の業界においてCD とカセットテープは、昔ながらの古典ロマンスに例えられるほど時代を超えた不朽の存在です。近年では、これらの記録媒体が新たなブームを生み出しています。もともと音楽が好きだった人たちはCD やカセットテープのきめ細かい音質を好み、若者たちはおしゃれなアートコレクションという位置づけでCD やカセットテープを求めています。
今回は、BTB ミュージックワークショップとRK レコードという2つのレコードショップを訪問し、このブームについてのお話を伺いました。
▲デジタルミュージックのほうが便利だとはいえ、レコード店で<宝探し>をする音楽愛好家はたくさんいます。
懐かしいあの頃
BTBミュージックワークショップは台北MRT 古亭駅4番出口の近くにあります。駅から近いといっても裏通りに隠れているので、よく探さなければ見つけられないかもしれません。お店の看板には「没有新歌的唱片行(新曲を扱わないレコードショップ)」とあり、扱っているのは2000年代以前の音楽がほとんどです。
ショップのオーナーである詹宏翔(ジャン・ホンシャン)氏は「新曲は取り扱ってはいませんが、真新しいものが見つからないとは限らないですよ」と話します。
▲大の音楽好きであるBTB ミュージックワークショップのオーナー詹宏翔氏は、熱意を持ってお店を運営しています。
およそ15坪ほどの店内にはCDやビニール盤、古いカセットテープが山積みになっています。ジャンルは、洋楽からアジアのクラシック音楽と様々で、お店の壁にはひと昔前の歌手のポスターやカこれらの貴重な品々は、すべて詹氏の個人的なコレクションの一部です。
「カセットテープを買うお客さんは、CDを買う人とは需要が異なります。」と詹氏は説明します。「一般的に、CDを買う主な年齢層は1960年代後半から1980年代半ば生まれの人です。テープの場合は、ただテープで音楽を聴きたいだけの人が多いですが、近年、若者の間ではドラマの影響でテープをコレクションとして集めている人も多くいます。こうした若者は、歌手の名前を知っているから、あるいはカバーやパッケージを見てこれだ!と決めて買うことが多いです。どうやって選べばよいか分からない人は、何も録音されていない生カセットテープを買ってしまうこともあります」。
▲1970 年から2000 年にかけてリリースされたカセットテープやCD はBTBミュージックワークショップで見つけることができます。
詹氏はカセットテープの始まりと今日の人気復活に至るまでの歴史を教えてくれました。「カセットテープが注目を集めたのは1970年代半ばから1990年代後半までです。主な要因は、ソニーが80年代にウォークマンを発売したからで、これによって利用シーンが増え、どんどん普及していきました。しかし、1990年代の頭にはCDが徐々に人気となり、テープの需要は下降していきます。CDは90年代に全盛期を迎えますが、2000年にデジタル音楽とMP3が台頭し、2010年から現在に至っては音楽配信サービスが利用されるようになったことで下火になっていきました」。
1980年代~1990 年代にかけては、現在にもインスピレーションを与えるような台湾ポップスの黄金時代でした。詹氏曰く、「1990年代の西門町にはたくさんのレコードショップがありました。中は、クロスラインというお店。洋楽を専門に取り扱っており、ダンスホール文化の推進にも一役買っていました」。台湾では1990年代にCDの生産が始まり、音楽産業を新たなステージへと引き上げました。「2006年から2007年頃まではCDもまだまだ人気がありました」と詹氏は続けます。2000年頃にMP3の台頭があったほか、CDをコピーするツールが普及したことで、海賊版の音楽を無償で、容易に手に入れられるようになりました。その結果、音楽業界の売り上げがガタ落ちになってしまったのです。
詹氏は「当店のお客さんの一部は、音楽について詳しくなく、コピーライトやアーティストの歌、音楽の制作過程も知らない人がいますし、世の中には海賊版のCDがあちこちに溢れています」と、やや憤慨して話します。
「デジタル音楽によってアナログメディアの売り上げは落ちましたが、アナログメディアが完全に消えるとは思いません。人々にとって音楽のある環境は当たり前になっています。なので、通勤中は音楽配信サービスを利用し、家ではCDをかけるなど、デジタルとアナログの共存は可能なはずです」とこれからのチャレンジについて語ってくれました。
🎧詹氏がおすすめのカセットテープ
🎵李宗盛 『生命中的精靈』
🎵張雨生 『口是心非』
🎵齊豫 『故事』
🎵美空ひばり 「川の流れのように」
BTB ミュージックワークショップ
住所 大安区和平東路一段12巷 4 号
営業時間 11:00 ~ 20:00( 月曜日 ~ 金曜日 )
11:00 ~ 19:00( 土曜日 )
( 日曜定休)
創業3 0年近くの レコードショップ
1994年7月に開業したRK レコードは、MRT 台北小巨蛋駅と南京三民駅の近くにあります。
お店のオーナーである丁寶萬(ディン・バオワン)氏は、音楽の図書館を立てたいという夢をもっていました。「これは実現するのが難しそうだったので、二番目の目標として、個性的なレコードショップを開くことにしました。私がこの業界に入ったのは1994年と遅めで、オープン当初には音楽産業がすでにピークを過ぎていたんです。なので、3年後には中古のカセットテープやCDを販売していました」と丁氏は続けます。「当時の中古市場は売買ではなく、交換がメインでした。私たちはその型を破って中古品の売買を始めました」。
▲RK レコードのオーナー丁寶萬氏は、音楽に対して高い見識を持った人物です。
1990年代後半、すでにレコード会社はテープの販売には力をいれておらず、レコードショップでも多くの在庫を抱えないようにしていました。そんな中で丁氏は、在庫を処分せずに箱ごとにまとめて売り続けたそうです。「自分でも驚きましたが、それから数年後、お客さんが宝探しをするようにテープの山に目を付け、次から次へと売れていきました。現在、テープは1本400~500台湾ドル(約2000円)と決して安価ではありません。それでも音質を楽しむために聞く人もいれば、思い出のために聞く人もいます。また、台湾のドラマでは時々カセットテープが登場するので、それを見た人は過去を思い出して店頭に買いに来るのです」。
▲RK レコードの隅にひっそりと佇むテープマシン。
RKレコードの強みは、専門性、豊富な在庫量と多様性、そして自社ウェブサイトにある音楽データベースの頻繁な更新です。「商品ラインナップは日々変わり続けています」と丁氏は説明します。「レコードショップは、毎月約1000個の商品を仕入れています。新商品だけでなく古い商品も補充が必要になるのでスペースが必要ですが、今は全く足りていません。なので、一部の商品は一時的に床に置いたりしていますが、お客さんは掘り出し物をもとめて来店されるので、狙ってこうした配置をしている部分もあります」と丁氏は笑います。
▲音楽愛好者は、RK レコードにある犬の彫刻を見るとすぐ見分けがつきます。イギリスのレコードレーベル< HMV >のマスコット、<ニッパー>は音楽業界の代表的なシンボルです。
「ただ、全てが順風満帆というわけではありません」と丁氏は話を続けます。「たくさんのチャレンジがあります。例えば、大家さんは家賃を上げようと常に交渉してくるので、お店の移転も珍しくありません。その上、この業界は競争が激しく、CDのチェーン店が相次いで閉店した後は、個人的なバイヤーが次々と現れ、価格は高騰しました」。それでもRKレコードは経営理念を貫き、お手頃な価格で販売を続けています。
▲丁氏がおすすめするシングルのデザインは風邪薬の外見をコンセプトにし、遊び心があります。
「当店に来られるお客さんは、40代半ばから60代までがほとんどです。この年代の方々は実店舗を好む傾向があります。それとは反対に20代から30代の若者はネットショップで注文をして、店舗には商品を取りに来るだけというケースがほとんどです。未だにテープを購入する人はいますが、必ずしも音楽鑑賞のために買うわけではありません。最近、一人のお客さんがいろんな色や形のテープを買いに来ていましたが、デザインのためと言っていました。また、テレビ局や映画会社が撮影のために借りに来ることもあります。他にも台湾の有名なバンド、五月天(MAYDAY) の《World Crazy 》という楽曲のMVには以前の店舗が登場していますし、香港歌手のジョイ・ヨンの《Lonely Portrait 》のMVも同様です。このように一定の需要があるので、当店がなくなることはないと思います」と丁氏は話してくれました。
▲いろいろなレコードやCD が並ぶ店内でいい音楽を探したりするのは、図書館で興味のある本を探すようです。
🎧丁氏がおすすめのCD
🎵蔡琴 『機遇』
🎵蔡依林 『旅程』
🎵椎名林檎 『絶頂集』
🎵U2 「All That You Can't Leave Behind」
RK レコード
住所 松山区光復北路85 巷 21号
営業時間 11:00 ~ 19:00( 月曜日 ~ 金曜日 )
11:00 ~ 18:00( 土曜日 )
( 日曜定休)
音楽のリバイバル
CDとカセットテープの再興
文:Catherine Shih 編集:下山敬之 写真:Samil Kuo
音楽の業界においてCD とカセットテープは、昔ながらの古典ロマンスに例えられるほど時代を超えた不朽の存在です。近年では、これらの記録媒体が新たなブームを生み出しています。もともと音楽が好きだった人たちはCD やカセットテープのきめ細かい音質を好み、若者たちはおしゃれなアートコレクションという位置づけでCD やカセットテープを求めています。
今回は、BTB ミュージックワークショップとRK レコードという2つのレコードショップを訪問し、このブームについてのお話を伺いました。
▲デジタルミュージックのほうが便利だとはいえ、レコード店で<宝探し>をする音楽愛好家はたくさんいます。
懐かしいあの頃
BTBミュージックワークショップは台北MRT 古亭駅4番出口の近くにあります。駅から近いといっても裏通りに隠れているので、よく探さなければ見つけられないかもしれません。お店の看板には「没有新歌的唱片行(新曲を扱わないレコードショップ)」とあり、扱っているのは2000年代以前の音楽がほとんどです。
ショップのオーナーである詹宏翔(ジャン・ホンシャン)氏は「新曲は取り扱ってはいませんが、真新しいものが見つからないとは限らないですよ」と話します。
▲大の音楽好きであるBTB ミュージックワークショップのオーナー詹宏翔氏は、熱意を持ってお店を運営しています。
およそ15坪ほどの店内にはCDやビニール盤、古いカセットテープが山積みになっています。ジャンルは、洋楽からアジアのクラシック音楽と様々で、お店の壁にはひと昔前の歌手のポスターやカこれらの貴重な品々は、すべて詹氏の個人的なコレクションの一部です。
「カセットテープを買うお客さんは、CDを買う人とは需要が異なります。」と詹氏は説明します。「一般的に、CDを買う主な年齢層は1960年代後半から1980年代半ば生まれの人です。テープの場合は、ただテープで音楽を聴きたいだけの人が多いですが、近年、若者の間ではドラマの影響でテープをコレクションとして集めている人も多くいます。こうした若者は、歌手の名前を知っているから、あるいはカバーやパッケージを見てこれだ!と決めて買うことが多いです。どうやって選べばよいか分からない人は、何も録音されていない生カセットテープを買ってしまうこともあります」。
▲1970 年から2000 年にかけてリリースされたカセットテープやCD はBTBミュージックワークショップで見つけることができます。
詹氏はカセットテープの始まりと今日の人気復活に至るまでの歴史を教えてくれました。「カセットテープが注目を集めたのは1970年代半ばから1990年代後半までです。主な要因は、ソニーが80年代にウォークマンを発売したからで、これによって利用シーンが増え、どんどん普及していきました。しかし、1990年代の頭にはCDが徐々に人気となり、テープの需要は下降していきます。CDは90年代に全盛期を迎えますが、2000年にデジタル音楽とMP3が台頭し、2010年から現在に至っては音楽配信サービスが利用されるようになったことで下火になっていきました」。
1980年代~1990 年代にかけては、現在にもインスピレーションを与えるような台湾ポップスの黄金時代でした。詹氏曰く、「1990年代の西門町にはたくさんのレコードショップがありました。中は、クロスラインというお店。洋楽を専門に取り扱っており、ダンスホール文化の推進にも一役買っていました」。台湾では1990年代にCDの生産が始まり、音楽産業を新たなステージへと引き上げました。「2006年から2007年頃まではCDもまだまだ人気がありました」と詹氏は続けます。2000年頃にMP3の台頭があったほか、CDをコピーするツールが普及したことで、海賊版の音楽を無償で、容易に手に入れられるようになりました。その結果、音楽業界の売り上げがガタ落ちになってしまったのです。
詹氏は「当店のお客さんの一部は、音楽について詳しくなく、コピーライトやアーティストの歌、音楽の制作過程も知らない人がいますし、世の中には海賊版のCDがあちこちに溢れています」と、やや憤慨して話します。
「デジタル音楽によってアナログメディアの売り上げは落ちましたが、アナログメディアが完全に消えるとは思いません。人々にとって音楽のある環境は当たり前になっています。なので、通勤中は音楽配信サービスを利用し、家ではCDをかけるなど、デジタルとアナログの共存は可能なはずです」とこれからのチャレンジについて語ってくれました。
🎧詹氏がおすすめのカセットテープ
🎵李宗盛 『生命中的精靈』
🎵張雨生 『口是心非』
🎵齊豫 『故事』
🎵美空ひばり 「川の流れのように」
BTB ミュージックワークショップ
住所 大安区和平東路一段12巷 4 号
営業時間 11:00 ~ 20:00( 月曜日 ~ 金曜日 )
11:00 ~ 19:00( 土曜日 )
( 日曜定休)
創業3 0年近くの レコードショップ
1994年7月に開業したRK レコードは、MRT 台北小巨蛋駅と南京三民駅の近くにあります。
お店のオーナーである丁寶萬(ディン・バオワン)氏は、音楽の図書館を立てたいという夢をもっていました。「これは実現するのが難しそうだったので、二番目の目標として、個性的なレコードショップを開くことにしました。私がこの業界に入ったのは1994年と遅めで、オープン当初には音楽産業がすでにピークを過ぎていたんです。なので、3年後には中古のカセットテープやCDを販売していました」と丁氏は続けます。「当時の中古市場は売買ではなく、交換がメインでした。私たちはその型を破って中古品の売買を始めました」。
▲RK レコードのオーナー丁寶萬氏は、音楽に対して高い見識を持った人物です。
1990年代後半、すでにレコード会社はテープの販売には力をいれておらず、レコードショップでも多くの在庫を抱えないようにしていました。そんな中で丁氏は、在庫を処分せずに箱ごとにまとめて売り続けたそうです。「自分でも驚きましたが、それから数年後、お客さんが宝探しをするようにテープの山に目を付け、次から次へと売れていきました。現在、テープは1本400~500台湾ドル(約2000円)と決して安価ではありません。それでも音質を楽しむために聞く人もいれば、思い出のために聞く人もいます。また、台湾のドラマでは時々カセットテープが登場するので、それを見た人は過去を思い出して店頭に買いに来るのです」。
▲RK レコードの隅にひっそりと佇むテープマシン。
RKレコードの強みは、専門性、豊富な在庫量と多様性、そして自社ウェブサイトにある音楽データベースの頻繁な更新です。「商品ラインナップは日々変わり続けています」と丁氏は説明します。「レコードショップは、毎月約1000個の商品を仕入れています。新商品だけでなく古い商品も補充が必要になるのでスペースが必要ですが、今は全く足りていません。なので、一部の商品は一時的に床に置いたりしていますが、お客さんは掘り出し物をもとめて来店されるので、狙ってこうした配置をしている部分もあります」と丁氏は笑います。
▲音楽愛好者は、RK レコードにある犬の彫刻を見るとすぐ見分けがつきます。イギリスのレコードレーベル< HMV >のマスコット、<ニッパー>は音楽業界の代表的なシンボルです。
「ただ、全てが順風満帆というわけではありません」と丁氏は話を続けます。「たくさんのチャレンジがあります。例えば、大家さんは家賃を上げようと常に交渉してくるので、お店の移転も珍しくありません。その上、この業界は競争が激しく、CDのチェーン店が相次いで閉店した後は、個人的なバイヤーが次々と現れ、価格は高騰しました」。それでもRKレコードは経営理念を貫き、お手頃な価格で販売を続けています。
▲丁氏がおすすめするシングルのデザインは風邪薬の外見をコンセプトにし、遊び心があります。
「当店に来られるお客さんは、40代半ばから60代までがほとんどです。この年代の方々は実店舗を好む傾向があります。それとは反対に20代から30代の若者はネットショップで注文をして、店舗には商品を取りに来るだけというケースがほとんどです。未だにテープを購入する人はいますが、必ずしも音楽鑑賞のために買うわけではありません。最近、一人のお客さんがいろんな色や形のテープを買いに来ていましたが、デザインのためと言っていました。また、テレビ局や映画会社が撮影のために借りに来ることもあります。他にも台湾の有名なバンド、五月天(MAYDAY) の《World Crazy 》という楽曲のMVには以前の店舗が登場していますし、香港歌手のジョイ・ヨンの《Lonely Portrait 》のMVも同様です。このように一定の需要があるので、当店がなくなることはないと思います」と丁氏は話してくれました。
▲いろいろなレコードやCD が並ぶ店内でいい音楽を探したりするのは、図書館で興味のある本を探すようです。
🎧丁氏がおすすめのCD
🎵蔡琴 『機遇』
🎵蔡依林 『旅程』
🎵椎名林檎 『絶頂集』
🎵U2 「All That You Can't Leave Behind」
RK レコード
住所 松山区光復北路85 巷 21号
営業時間 11:00 ~ 19:00( 月曜日 ~ 金曜日 )
11:00 ~ 18:00( 土曜日 )
( 日曜定休)
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