発表日:2023-03-10
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TAIPEI #31 (2023 春季号)
読書のすゝめ
文:Hsuan Yin Chang、Genie Zheng 編集:下山敬之 写真:George Zhan、李恵貞、Yuskay Huang、Boven 雑誌図書館
台北には読書のための資源が豊富にあります。2016 年に世界都市文化フォーラムが発表した調査によると、人口当たりの書店数で、台北は世界第2 位でした。24時間365日営業の世界的に有名な書店に加え、大手チェーン店や個性的なインディーズストアが数多くあります。
▲台北には、多くの本好きが本屋で集まり、勉強会を結成したり交流をしたりしています。(写真/ 李恵貞)
1980 年代から1990 年代の中正区重慶南路には、百軒以上の書店が軒を連ね、台北で最も書店が密集する地域でした。多くの文学者、知識人、学生にとって、種類や目的を問わず、あらゆる本が手に入る楽園のような場所だったようです。しかし、時代は流れ、オンライン書店の影響や読書人口の減少などにより、この「本屋街」は姿を消します。代わって姿を現したのは、台北の至る所に開かれた独立系書店でした。
読書人口は減ったものの、この街には依然として本好きが多く、紙ベースの本の楽しさを伝えたり、読書習慣を身につけるための講演やイベントを開催している人がいます。ユニコーン読書プロジェクトもそうした取り組みの一つです。
このプロジェクトは、出版業界で20 年以上の経験を持つ編集者の李恵貞(リー・ホイジェン)氏によって設立されました。李氏によれば、ある朝突然プロジェクトのアイデアがひらめいたそうです。当時は途方も無い話だと思う人もいましたが、それは彼女が長年にわたって培った編集・出版経験の集大成だったのです。その後、彼女は自分が幸せになれる仕事、つまり読書の推進に専念するために本業を辞めました。
読書習慣の確立から始める
ユニコーン読書プロジェクトは、2017 年に正式に発足しました。当初、この取り組みがどれほど大きくなるか、李氏は見当もつきませんでした。彼女はその偉大なる一歩を踏み出し、あとは天の意思に委ねたのです。そんな同プロジェクトは、今年で6年目を迎えます。
李氏が読書の推進に力を入れるのは、単に出版業が好きだからというだけでなく、「本にはすべての答えがある。読んだ本の内容は無意識に浸透し、自分を成長させる糧になる」と信じているからです。
▲李恵貞氏にとって読書は生活の中心であり、インスピレーションと人生の様々な答えをもたらしてくれます。
李氏は、自分が読んだ本の感想をSNSで発信することも多く、内容やデザインなど様々な角度から分析をしています。各投稿の最後には、表紙のデザイナー、植字工、編集者など、その本に携わった人たちのリストが掲載されています。読者としての鋭い観察眼に加え、李氏が出版業界を支える人たちに深い敬意を抱いていることがよくわかります。
李氏は年に50冊ほど本を読みます。彼女は本と出会ったらすべて味わい尽くさなければならないと言いますが、一冊を読み終えるまで次の本を読まないわけではありません。朝は知識を深めるために比較的内容の濃い科学書を、就寝前はリラックスするために自然に関する本、出かける前はその時の気分で持っていく本を選ぶそうです。
▲李氏が本好きなのでいつも本を持ち歩いています。
このような読み方が無限のインスピレーションの源であると李氏は分析しています。また、同じ問題について相反する主張をしている著者を見つけること、同じ結論に至った異なる本を発見することにも喜びを感じると言います。
読書の推進に向けた取り組み
書店の風景が大きく変化したのは、社会の読書離れが原因と考える人もいますが、読書を広める李氏は台北の読書習慣が大きく変わったとは考えていません。
読書を促進する過程で、彼女が直面した課題について尋ねてみました。「編集者として、またマーケターとして、新しいアイデアはすべてが挑戦です。でも、それが私たちの仕事なんです。課題が現れたら、それを克服するための方法を見つけます。今は目標を設定せずに、過程を楽しむような作品を作っています」李氏は続けます。「読書会に来た人の半分が本を買ってくれたり、イベントへの参加をきっかけに本を読むようになる人がいれば、それだけで満足です」。
▲本について話す際、李氏は熱心に読書から得た知見を共有してくれます。
彼女が数回目の読書会を終えた際、複数の参加者から「本好きの仲間とコミュニケーションを取る方法はないか」という質問がありました。彼女はこれに応えて、ユニコーン読書プロジェクトのファンページを作成しました。現在では、医師やダンサー、公務員など、さまざまな職業の読者700人近くが登録をしていて、必要に応じてイベントの手伝いをしています。ユニコーン読書プロジェクトは、対面でのコミュニケーションが減少している現代において、単に読書を推進するだけでなく、共通の趣味を持つ人々が集まって何かを行い、その過程で深い絆を育むという貴重な場でもあるのです。
▲勉強会で参加者が好きな本を選び、ほかの人との交流でインサイトが見つかります。(写真/ 李恵貞)
ユニコーン読書プロジェクトが関係しているイベントには、聯合報が発行する雑誌『500輯』と共催した講演会「読書と思索のパーティー」などのコラボ企画があります。他にも郭怡美書店とプレオープンイベントを開催するなど、1年を通して読書体験を共有する機会を数多く提供しています。
書店の特徴を探る
本屋に立ち寄るのが趣味という李氏は、娘さんと二人で、わずか1カ月の間に日本にある66箇所の書店を巡ったことがあるそうです。本の目利きでもある彼女は、本屋に並ぶ本を見ると店主の嗜好が分かると言います。見栄えを重視したディスプレイにしているのか、テーマごとに整理して探しやすさを重視しているのかなど、長年の経験で培われた感覚で、書店の特徴を探ります。
彼女によれば、台北市大安区にある「童里絵本洋行」と「Boven雑誌図書館」は、非常に個性的な書店です。潮州街にある「童里絵本洋行」には、世界各国の優れた絵本が集められています。2つ折りの絵本や飛び出す絵本など種類が豊富で、大人から子供まで楽しめます。視覚デザインや構成に興味がある人にとって、絵本はインスピレーションと創造性を提供してくれる最高の媒体です。
▲童里絵本洋行には多彩な絵本が揃っており、それぞれ異なるインスピレーションを大人にも子供にも与えてくれます。( 写真/ Yuskay Huang )
一方、復興南路にある「Boven 雑誌図書館」は、アジア初の雑誌を専門とする図書館で、1万冊以上の雑誌を所蔵しています。世界各国のさまざまな雑誌が揃っていますが、特に台湾の人たちが憧れる日本の生活情報誌が多いのが特徴です。また、雑誌作りに携わる人たちが、展示会や講演会、交流会などのイベントを行うためのスペースも用意されています。
▲Boven 雑誌図書館は世界的にも珍しい雑誌専門の図書館であり、居心地の良い空間を提供しています。(写真/ Boven雑誌図書館)
「本を選んだ瞬間から読書は始まっている」と李氏は言います。「あなたが選んだ本には、あなたが何を考え、何を心配し、何を切望しているかが表れています」。彼女は読書がいかに素晴らしいものかを知っています。その体験から、人生の方向性を見つける方法として、また自分自身や世界の可能性を探る方法として、多くの人たちに読書を推奨しているのです。
👍おすすめ
書店
童里絵本洋行
住所 大安区潮州街15号
営業時間 12:00 ~ 18:00(火曜日〜金曜日)
11:00 ~ 18:00(土日)
(月曜日定休)
BOVEN 雑誌図書館
住所 大安区復興南路一段107 巷 5 弄 18 号 B1
営業時間 10:00 ~ 21:00
書籍
『才能を磨く—自分の素質の生かし方、殺し方』ケン・ロビンソン
ベストセラー『才能を引き出すエレメントの法則』の著者であるケン・ロビンソンは、専門家がプレゼンテーションを行う番組TED で最も視聴された講演を行った人物です。CNN が選出する世界有数の専門家「Principal Voices」の一人にも選ばれています。
本書は自分の興味や情熱がどこにあるのか分からない人に、勇気と新たな自信を与えてくれる一冊です。人生の悩みに対する答えを見つけたい人にオススメです。
『朝一座生命的山(命の山の巡礼)』李恵貞
あらゆる人に読んでほしい一冊。本書の中核となる菩薩寺の美と哲学が、デザインにもそのまま現れています。
本のジャケットは土に還るシードペーパーで出来ているほか、見返しに反射ミラーシートを使用することで読者の顔を反射させ、自身と向き合う旅をさせるという工夫がなされています。
▲李氏オススメの本と取材当日に携帯していた本。
読書のすゝめ
文:Hsuan Yin Chang、Genie Zheng 編集:下山敬之 写真:George Zhan、李恵貞、Yuskay Huang、Boven 雑誌図書館
台北には読書のための資源が豊富にあります。2016 年に世界都市文化フォーラムが発表した調査によると、人口当たりの書店数で、台北は世界第2 位でした。24時間365日営業の世界的に有名な書店に加え、大手チェーン店や個性的なインディーズストアが数多くあります。
▲台北には、多くの本好きが本屋で集まり、勉強会を結成したり交流をしたりしています。(写真/ 李恵貞)
1980 年代から1990 年代の中正区重慶南路には、百軒以上の書店が軒を連ね、台北で最も書店が密集する地域でした。多くの文学者、知識人、学生にとって、種類や目的を問わず、あらゆる本が手に入る楽園のような場所だったようです。しかし、時代は流れ、オンライン書店の影響や読書人口の減少などにより、この「本屋街」は姿を消します。代わって姿を現したのは、台北の至る所に開かれた独立系書店でした。
読書人口は減ったものの、この街には依然として本好きが多く、紙ベースの本の楽しさを伝えたり、読書習慣を身につけるための講演やイベントを開催している人がいます。ユニコーン読書プロジェクトもそうした取り組みの一つです。
このプロジェクトは、出版業界で20 年以上の経験を持つ編集者の李恵貞(リー・ホイジェン)氏によって設立されました。李氏によれば、ある朝突然プロジェクトのアイデアがひらめいたそうです。当時は途方も無い話だと思う人もいましたが、それは彼女が長年にわたって培った編集・出版経験の集大成だったのです。その後、彼女は自分が幸せになれる仕事、つまり読書の推進に専念するために本業を辞めました。
読書習慣の確立から始める
ユニコーン読書プロジェクトは、2017 年に正式に発足しました。当初、この取り組みがどれほど大きくなるか、李氏は見当もつきませんでした。彼女はその偉大なる一歩を踏み出し、あとは天の意思に委ねたのです。そんな同プロジェクトは、今年で6年目を迎えます。
李氏が読書の推進に力を入れるのは、単に出版業が好きだからというだけでなく、「本にはすべての答えがある。読んだ本の内容は無意識に浸透し、自分を成長させる糧になる」と信じているからです。
▲李恵貞氏にとって読書は生活の中心であり、インスピレーションと人生の様々な答えをもたらしてくれます。
李氏は、自分が読んだ本の感想をSNSで発信することも多く、内容やデザインなど様々な角度から分析をしています。各投稿の最後には、表紙のデザイナー、植字工、編集者など、その本に携わった人たちのリストが掲載されています。読者としての鋭い観察眼に加え、李氏が出版業界を支える人たちに深い敬意を抱いていることがよくわかります。
李氏は年に50冊ほど本を読みます。彼女は本と出会ったらすべて味わい尽くさなければならないと言いますが、一冊を読み終えるまで次の本を読まないわけではありません。朝は知識を深めるために比較的内容の濃い科学書を、就寝前はリラックスするために自然に関する本、出かける前はその時の気分で持っていく本を選ぶそうです。
▲李氏が本好きなのでいつも本を持ち歩いています。
このような読み方が無限のインスピレーションの源であると李氏は分析しています。また、同じ問題について相反する主張をしている著者を見つけること、同じ結論に至った異なる本を発見することにも喜びを感じると言います。
読書の推進に向けた取り組み
書店の風景が大きく変化したのは、社会の読書離れが原因と考える人もいますが、読書を広める李氏は台北の読書習慣が大きく変わったとは考えていません。
読書を促進する過程で、彼女が直面した課題について尋ねてみました。「編集者として、またマーケターとして、新しいアイデアはすべてが挑戦です。でも、それが私たちの仕事なんです。課題が現れたら、それを克服するための方法を見つけます。今は目標を設定せずに、過程を楽しむような作品を作っています」李氏は続けます。「読書会に来た人の半分が本を買ってくれたり、イベントへの参加をきっかけに本を読むようになる人がいれば、それだけで満足です」。
▲本について話す際、李氏は熱心に読書から得た知見を共有してくれます。
彼女が数回目の読書会を終えた際、複数の参加者から「本好きの仲間とコミュニケーションを取る方法はないか」という質問がありました。彼女はこれに応えて、ユニコーン読書プロジェクトのファンページを作成しました。現在では、医師やダンサー、公務員など、さまざまな職業の読者700人近くが登録をしていて、必要に応じてイベントの手伝いをしています。ユニコーン読書プロジェクトは、対面でのコミュニケーションが減少している現代において、単に読書を推進するだけでなく、共通の趣味を持つ人々が集まって何かを行い、その過程で深い絆を育むという貴重な場でもあるのです。
▲勉強会で参加者が好きな本を選び、ほかの人との交流でインサイトが見つかります。(写真/ 李恵貞)
ユニコーン読書プロジェクトが関係しているイベントには、聯合報が発行する雑誌『500輯』と共催した講演会「読書と思索のパーティー」などのコラボ企画があります。他にも郭怡美書店とプレオープンイベントを開催するなど、1年を通して読書体験を共有する機会を数多く提供しています。
書店の特徴を探る
本屋に立ち寄るのが趣味という李氏は、娘さんと二人で、わずか1カ月の間に日本にある66箇所の書店を巡ったことがあるそうです。本の目利きでもある彼女は、本屋に並ぶ本を見ると店主の嗜好が分かると言います。見栄えを重視したディスプレイにしているのか、テーマごとに整理して探しやすさを重視しているのかなど、長年の経験で培われた感覚で、書店の特徴を探ります。
彼女によれば、台北市大安区にある「童里絵本洋行」と「Boven雑誌図書館」は、非常に個性的な書店です。潮州街にある「童里絵本洋行」には、世界各国の優れた絵本が集められています。2つ折りの絵本や飛び出す絵本など種類が豊富で、大人から子供まで楽しめます。視覚デザインや構成に興味がある人にとって、絵本はインスピレーションと創造性を提供してくれる最高の媒体です。
▲童里絵本洋行には多彩な絵本が揃っており、それぞれ異なるインスピレーションを大人にも子供にも与えてくれます。( 写真/ Yuskay Huang )
一方、復興南路にある「Boven 雑誌図書館」は、アジア初の雑誌を専門とする図書館で、1万冊以上の雑誌を所蔵しています。世界各国のさまざまな雑誌が揃っていますが、特に台湾の人たちが憧れる日本の生活情報誌が多いのが特徴です。また、雑誌作りに携わる人たちが、展示会や講演会、交流会などのイベントを行うためのスペースも用意されています。
▲Boven 雑誌図書館は世界的にも珍しい雑誌専門の図書館であり、居心地の良い空間を提供しています。(写真/ Boven雑誌図書館)
「本を選んだ瞬間から読書は始まっている」と李氏は言います。「あなたが選んだ本には、あなたが何を考え、何を心配し、何を切望しているかが表れています」。彼女は読書がいかに素晴らしいものかを知っています。その体験から、人生の方向性を見つける方法として、また自分自身や世界の可能性を探る方法として、多くの人たちに読書を推奨しているのです。
👍おすすめ
書店
童里絵本洋行
住所 大安区潮州街15号
営業時間 12:00 ~ 18:00(火曜日〜金曜日)
11:00 ~ 18:00(土日)
(月曜日定休)
BOVEN 雑誌図書館
住所 大安区復興南路一段107 巷 5 弄 18 号 B1
営業時間 10:00 ~ 21:00
書籍
『才能を磨く—自分の素質の生かし方、殺し方』ケン・ロビンソン
ベストセラー『才能を引き出すエレメントの法則』の著者であるケン・ロビンソンは、専門家がプレゼンテーションを行う番組TED で最も視聴された講演を行った人物です。CNN が選出する世界有数の専門家「Principal Voices」の一人にも選ばれています。
本書は自分の興味や情熱がどこにあるのか分からない人に、勇気と新たな自信を与えてくれる一冊です。人生の悩みに対する答えを見つけたい人にオススメです。
『朝一座生命的山(命の山の巡礼)』李恵貞
あらゆる人に読んでほしい一冊。本書の中核となる菩薩寺の美と哲学が、デザインにもそのまま現れています。
本のジャケットは土に還るシードペーパーで出来ているほか、見返しに反射ミラーシートを使用することで読者の顔を反射させ、自身と向き合う旅をさせるという工夫がなされています。
▲李氏オススメの本と取材当日に携帯していた本。