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台北の歴史的遺産 大龍峒保安宮と保生文化祭 (TAIPEI Quarterly 2023 春季号 Vol.31)

アンカーポイント

発表日:2023-03-13

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TAIPEI #31 (2023 春季号)


台北の歴史的遺産
大龍峒保安宮と保生文化祭


文:Jenna Lynn Cody 編集:下山敬之  写真:Samil Kuo、大龍峒保安宮

台北の歴史的な寺院は文化の中心であり、歴史的な史跡でもあります。市内を鮮やかに彩る寺院の中でも一際目立っているのが大龍峒保安宮です。2 世紀以上の歴史を持つ保安宮では、健康と医療の神として崇められる保生大帝を祀っているほか、歴代の名匠による繊細な彫刻、交趾焼、対聯が彫刻された柱、大きな壁画などで覆われています。今回はこの文化遺産の物語と魅力をよりよく理解するため、廟の責任者である廖武治(リャン・ウーズー)氏と、国立台北芸術大学建築与文化資産研究所を修了した文化財研究員である張靖委(ジャン・ジンウェイ)氏にお話を伺いました。

保安宮-30▲保生大帝が祀られている保安宮は、大龍峒エリアに建立されてからすでに200 年以上経過しています。

大龍峒保安宮の歴史
保安宮はもともと、中国福建省の同安から移住してきた人々が、1742 年に大龍峒に建立したとされています。しかし、最初の保安宮がどこにあったかは分かっていません。

廖氏は、本殿にある保生大帝の像について、こう説明しています。「最初は中国で2体の像が彫られ、どちらが先に大龍峒へ着くのか競争が行われました。その際、先についた像は『老祖』、後についた方が『二祖』と呼ぶという取り決めがなされます。大きな像は嘉義県布袋から陸路で南部へ運ばれ、小さな像は淡水を経由して海路で運ばれました。最終的に小さな像が先に届き老祖、嘉義を経由した方が二祖と呼ばれることになりました」と説明します。

保安宮-12 (Copy)▲正殿にある保生大帝の老祖、二祖、三祖の神像。

現在の保安宮の広さは9917平方メートルにも及びますが、これは1805年に建設が始まりました。その際、より大きな保生大帝の像が台湾で制作され、三祖と呼ばれました。

「廟を建てる場所は、像に示してもらうために一緒に歩いて決めました」と廖氏。

保安宮-6▲長年、保安宮で行われるイベントを主催してきた董事長の廖武治氏は、法事も自身で執り行っています。

それから130年、保安宮には多くの困難を含む様々な出来事が起こりました。1859年には中国の福建省から渡ってきた漳州人と泉州人の間で武力衝突が発生。保安宮も被害を受けそうになりました。しかし、地元の人たちの活躍で襲撃を退け、事なきを得ます。日本が台北を占領していた1895年には、軍需品の爆発によって建物が破損し、一部は学校に転用されました。1949 年には国共内戦に敗れた国民党軍とその家族が中国から台湾に逃れ、保安宮に避難しています。その後、1967年と1995年に修復工事が施されました。

保安宮に祀られている神々
保生大帝は西暦979 年に生まれ、成人した後は官吏を務めていましたが、やがて保生大帝が奇跡で人々を救ったという噂が広まり始めます。とある逸話では、眼を患った龍が木こりに扮して暮らしていました。そこへ保生大帝が現れ、龍は眼を治してほしいとお願いをします。保生大帝は龍に薬を与え、それによって龍の眼は治ったそうです。

その後、時代の変遷とともに保安宮には儒教や仏教、道教の神々が祀られ始めます。有名なところでは孔子や観音、さらには妊娠と出産を司る註生娘娘、土地の神様である土地公、農業を司る神農大帝、海の女神・媽祖などが祀られました。特に道教の最高神であり、天地の創造主である玉皇大帝は、寺院の正面にある香炉と廟の最上階の一番奥に祀られています。

また、本殿には保生大帝に仕える黒虎将軍の像が鎮座しています。その昔、ある虎が婦人を丸呑みにしましたが、かんざしが喉に刺さってしまいました。虎は保生大帝に助けを求めましたが、人を殺めた生き物を助けることはできないと断られます。しかし、虎は立ち去らず、その場で懺悔をして今後は殺生をしないことを約束したので、保生大帝は虎を治療しました。その後、虎は命が尽きるまで保生大帝の乗り物として働き、死後も保生大帝を守り続けました。そのため、保生大帝は虎を神とし、人々は黒虎将軍と呼んで祀るようになったのです。民間では旧暦の4月1 6日を黒虎将軍の祭日として祝っています。

保安宮の芸術と建築
寺院の装飾は、単に美しさを追求したものではありません。「保安宮は約280年前に建てられた寺院なので、その建築や装飾には歴史的な意味があるのです」と張氏は言います。

保安宮-53 (Copy)▲保安宮はユネスコが主催する「アジア太平洋文化資産保存賞」を受賞しました。

まず目に入るのは、緻密な扉絵と入り口の天井にある非常に高い3本の梁。奥へ進むと中央の門には、顔が色黒な尉遲恭と、色白な秦叔寶という2体の門神が描かれています。2体はそれぞれ繁栄、幸運、昇進を司る神です。また、保安宮には合計5つの入口がありますが、清朝時代にこれほど大きな寺院を建てることは容易ではなかったと張氏は説明します。

本殿は左右対称に見えますが、1917年の改修工事の際に陳應彬、郭塔という別々の芸術家が手がけました。二重構造の屋根の真下には、二人の匠がそれぞれ饗宴と闘争をテーマにした秀逸な彫刻があります。それぞれの作品には、競争の一環として、自分や相手の腕前についてのさりげないコメントが添えられています。「お堂の両側は、芸術家同士の対話の場なのです」と張氏。「ある人は作品に自身の名を刻むかもしれませんし、あえて残さないかもしれません。名を残さないのは、素晴らしいものであれば作品自体の良さで評価されることを知っているからです」。

また、一般公開されていない本堂には交趾焼の名品や、19世紀初頭に中国・泉州の匠が手掛けた三十六天王像が展示されています。これらの像は、保生大帝の護衛を務めています。

保安宮-18保安宮-19▲正殿の内壁に描かれた竜虎は、交趾焼きによって繊細な美しさと雄々しい威厳が表現されています。

寺院の東と西の棟にも、様々なこだわりが見て取れます。それぞれの棟は伝統的な六角形ではなく、正方形となっています。西棟の上には郭塔が建てた太鼓楼がありますが、梁を支える木材には鳳凰や龍などが繊細に表現されています。媽祖と土地公が祀られている東棟には陳應彬が建てた鐘楼があります。太鼓楼と同様に巧みな彫刻が施されていますが、中でも特に目を引くのが土地公です。一般的な土地公とは帽子や服装が異なり、宰相のような姿をしています。

保安宮-35▲保安宮の建築の特徴のひとつは、当時職人がメッセージを彫刻して残すことです。

参拝の手順
保安宮を参拝する際には、まず正面にある玉皇大帝を表す香炉から始めなければなりません。次に本殿に進み保生大帝を参拝したあとは、その他の建物にお参りをします。「香炉が玉皇大帝を表しているのは、彼がどのような姿をしているか分からないからです」と張氏は補足します。

続けて、廖氏は「必ずそれぞれの神様に、ご自身の名前と住所を伝えてください。そして子供のことや健康に関して、仕事の悩みなどを神様に話しましょう。台湾式のおみくじで運勢を占うこともできます。そのためには赤い木片を使って神様にお伺いを立てる必要がありますが、神様から許可がでたらくじを受け取りましょう。くじに書かれている内容は、私たちスタッフが解説します」と説明してくれました。

また、神様によって司る事柄が異なります。健康や医療、仕事に関する悩みは保生大帝に、住まいや土地、事業に関することは土地公、旅行に関することは媽祖に相談しましょう。

出産や妊娠を司る註生娘娘にお祈りをする際は、お供え物が必要です。子宝を祈願する場合は化粧品や花、刺繍入りの靴をお供えするのが一般的です。また、女の子を希望する場合には、白い花を持参して赤い花と交換し、男の子の場合には赤い花を持参して白い花と交換します。

保安宮-43保安宮-44▲願いが叶ってくれたため、信者たちが註生娘娘に謝礼としての刺繍入りの靴を買ってきました。

廖氏は、保安宮では外国人の参拝も受け入れていると話します。「以前はカトリックだったフィリピン人の男性が参拝されました。その方の奥さんから、保安宮を参拝したら子供の熱が下がったと電話を頂いたこともあります」。

2023年保生文化祭
保安宮では毎年、保生大帝の誕生日を祝う「保生文化祭」を開催しています。このお祭りは通常、数か月にわたって続き、美術展、奨学金交付、講演会、歌劇や演劇の公演、無料医療相談、絵画コンテストなどのアクティビティが開催されます。2023年は4月23日~6月19日に開催される予定です。

「最高レベルの劇団を招聘しています」と廖氏は話します。「非常にクオリティが高いので、1000 席ほど用意する椅子は、いつも満席になります。各劇団が演技を披露し終えたあとに、保生大帝が最も優れていた劇団を選びます」。

放火獅-廖怡盛▲ユニークで伝統的な保生大帝の誕生日を祝うイベントである保生文化祭は、大龍峒保安宮によって発展されました。(  写真/大龍峒保安宮 )

また、3年に一度、保生大帝が大龍峒と大稲埕を練り歩くパレードが開催されます。このイベントは正午から夕方の間に開催され、翌日には保生大帝の像を清めるために、寺院の向かいの公園で火渡りの儀式(過火儀式)が開かれます。2023年はパレードと火渡りは行われませんが、5月3日の「放火獅」、4 月を通じて上演される演劇や歌劇、6月3日~6日に開催される美術展などが楽しめます。

▶️2023年保生文化祭

 

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