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TAIPEI 2016夏季号 Vol.04—自分の食べるものは自分で植える 世界に広がる都市農業ブーム

アンカーポイント

発表日:2016-07-12

更新日:2016-09-23

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文 _ 陳婉箐
写真 _ インクレディブル・エディブル・トッドモーデン・地域開発チーム、Eigenes Werk、ロイター、エナジーグローブ・ファウンデーション(EGF)

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アインシュタインはかつて「ミツバチが地上から姿を消せば、人類は4 年で滅ぶだろう」と言ったそうですが、多くの野菜と果物はミツバチが受粉を媒介することで命をつなげることが可能となっています。このため、ミツバチが絶滅すれば人類にも災難がもたらされると考えられ、多くの都市でミツバチを保護しようとする動きが活発化しています。
東京・銀座のビル、パリの国民議会議事堂、ベルリン大聖堂の屋上でミツバチが飼育されるようになっているほか、ノルウェーの首都、オスロにはミツバチが十分な食料を確保できるよう250 メートルおきに道路脇の住宅の屋上やベランダに植木が置かれた世界初の「ミツバチロード」が作られました。
米国ではミツバチの群れの急激な減少に直面し、3,400 万米ドルを投じる保護政策を打ち出しています。ミシェル・オバマ大統領夫人はホワイトハウスに住むようになった2009 年に養蜂を始めた上、並行して有機野菜や果物も栽培しています。また日本の安倍首相の昭恵夫人もホワイトハウス訪問をきっかけとして総理大臣官邸にミツバチの巣箱を設置、「都会の養蜂家」となりました。
農業への関心が世界的に高まる中、柯文哲台北市長は就任以降、田園都市政策を強力に推し進めています。2015 年には空き地など使用していない市内の土地を「田園基地」として市民団体に提供し、ともに「食べられる景観」(edible landscape)づくりに取り組む「田園都市地域農園推進センター」を開設しました。これは農園を通じて自然豊かで健康的な田園都市を築き上げ、都市の姿を一変させようという革新的な試みなのです。
市の各部局が1 年以上にわたり積極的に取り組んだ結果、現在、市民が利用できる「田園基地」19カ所が登録されているほか、学校内の小規模農園、市民農園、公共施設の屋上など270 カ所が活用されています。
ニューヨーク、ロンドン、ベルリン、東京、ソウルなどでもコンクリート・ジャングルの中で農具を手にする市民の姿を見ることができるように、都市において環境と食の持続可能性の実現を目指すことは世界的なトレンドとなっています。台北市でも他の都市を参考としつつ、独自の都市農業モデルを生み出す努力を続けています。

4.1.1_北英格蘭「可以吃」的托德摩登小鎮。(圖/Incredible Edible Todmorden Community Development Team提供).jpg
1. イングランド北部の「タダで食べられる町」、トッドモーデン。(写真/インクレディブル・エディブル・トッドモーデン・地域開発チーム)
ロンドン―都市農業でイメチェンに成功
「都市農業」という考え方が生まれたのは、1898 年に出版された英国の社会改良家、エベネザー・ハワードによる『明日の田園都市』(Garden City of To-Morrow)という書物までさかのぼります。この書物は都市と農村の長所を結びつけた理想郷の形成を提案するものでした。その後、一世紀の時を経てロンドンでは2009 年より、3 年後の五輪開催に向けた都市緑化プロジェクト「キャピタルグロース計画」をスタートさせ、まずその先駆的な理念を市民に周知することから着手しました。
そしてロンドン市政府は「手をどろんこにしよう」(Get your hands dirty)をスローガンに、市民に植物の栽培を奨励。5 平方メートル以上の土地を持ち、かつ5人以上のメンバーを集めれば「コミュニティー農園」を設立するための資金申請を可能にしました。同プロジェクトは五輪閉幕後も引き続き推進され、現在では2,500 カ所のコミュニティー農園が作られています。長い間荒れたまま放置されていたロンドン地下鉄の地下道も温室に姿を変え、有機野菜の栽培に利用されています。それだけでなく、このプロジェクトは「じめじめと冷たい金融都市」という従来のロンドンのイメージを一変させました。
また、イングランド地方北部の「タダで食べられる町」と呼ばれるトッドモーデンでは、2008 年からコミュニティー内での野菜栽培を奨励していますが、さらに空き地で栽培される野菜や果物を、誰でも無料で取って食べることができる「グリーンルート」を整備しました。この試みは景観を改善しただけでなく、衰退した地方の小さな町を英国でも有数の自給自足の町へ、さらにベジタリアン観光客の絶えないにぎやかな町へと変えたのです。
ベルリン―都市の中のオアシス
欧州で最も都市農業が盛んな国として真っ先にその名が挙がるドイツでは、1919 年の時点で既に「市民農園法」が制定されており、第2 次世界大戦時には空襲にあったドイツ人が市民農園によって飢えをしのいだそうです。しかし現在、同農園は主に農園体験やレジャー目的で利用されており、そのドイツの経験を参考に台北市は1990年、第1 号の市民農園を北投区に設置、これが台湾における都市農業のさきがけとなりました。
ベルリンの壁が崩壊した後、その周辺は広大な廃墟と化していましたが、2009 年夏に非営利組織(NPO)「ノマディック・グリーン」が荒れ地を都市農場「王女の庭(Prinzessinnengarten)」に変える一大プロジェクトを開始しました。このスペースで誰でも植物を育てることができるようにしたところ、多くの市民からプロジェクトへの協力が得られ、現在では毎年約500種類の野菜と果物が収穫できるようになり、まるで都市の中のオアシスのような存在に生まれ変わっています。
「王女の庭」の中には菜園の以外にもフリーマーケットや養蜂教室、アクティビティセンターなどが設置されているほか、当然、レストランもあり、そこで提供されるサラダやハーブティーは全てこの「庭」で採れた食材が使用されています。
ニューヨーク―世界最大の屋上農園
地価が非常に高いことで知られる世界の都、ニューヨークでも、人口最多のブルックリン区に世界最大規模の屋上農園「ブルックリン・グランジ」は存在します。2010 年、数人の若者が築100 年を超える古い倉庫の屋上で作物を育てようという奇抜なアイデアを思いつきました。彼らはペンシルベニア州から持ち込んだ土と、廃棄された木材と生ごみを回収して作った有機堆肥を使って有機野菜を栽培。さらに2012 年には2 カ所目の屋上農園を開発し、合わせて2.5 エーカーの「農地」で毎年5 万ポンド以上の有機野菜を収穫しています。
またブルックリン・グランジには野菜畑だけでなく養蜂場と養鶏場も併設されており、複合農業方式による生態系バランスの調和を目指しています。なお農園では約40 種類の農作物を栽培すると同時に観光客に見学を開放するなど多彩なサービスを提供しています。さらに、彼らの試みに影響を受けたニューヨーカーが屋上や空き地、学校のキャンパス、公園などで次々と作物を育てるようになっており、摩天楼のそびえ立つ大都市に700 カ所以上の都市農場が出現し、異彩を放っています。

4.1.3_首爾設定於2018年要達到農耕土地面積增加近5倍的目標。(圖/Energy Globe Foundation (EGF)提供).jpg
2. ソウル市は2018 年までに農地面積を約5 倍にすることを目標としています。(写真/エナジーグローブ・ファウンデーション)
東京・銀座―養蜂がビジネスチャンスに
屋上での野菜栽培や養蜂は欧米諸国だけの流行ではなく、アジアの国々でも地球市民としての責務を果たそうとする動きが出てきています。日本のNPO「銀座ミツバチプロジェクト」は2006 年、アジアで最も土地の値段が高いとされる東京・銀座のビル屋上で養蜂を行うことを発案しました。その背景には、ミツバチが蜜を集めるのに適した日比谷公園や皇居が近くに存在するという立地条件がありました。
現在、同プロジェクトで毎年大量に収穫される蜂蜜は、周辺商店のアイデアを基に収穫シーズン限定の人気商品へと姿を変え、銀座の町に新たなビジネスチャンスをもたらしています。さらに、共通の話題ができたことで地域の絆も深まったほか、ミツバチがせっせと働くことで周辺の植物の受粉が促され、樹木が長らくぶりに実を結び、これにより鳥や虫たちが集まるようになるなど自然も豊かになったそうです。
また人材派遣会社のパソナは、屋上での野菜栽培や養蜂に加え、不可能と思われたアイデア―オフィス内での農園運営を実現させました。この「アーバンファーム」と呼ばれる農園は東京にあるグループ本部ビル内に設置されており、3,995 平方メートルを利用して米、トマト、ナス、ピーマンなど200 種類を超える作物が栽培されています。ちなみに、これらの作物は全て、社員食堂で食材として使われているそうです。同ビルではエレベーター前のロビー、廊下、応接室、レストランなどあらゆるエリアに野菜や果物、草花の姿を目にすることができ、人と自然の共存という理念を現実のものとした最良のモデルケースと言えるでしょう。
4.1.4_從布魯克林農莊開始發酵,紐約目前有700多座都市農園。(圖/路透社提供).jpg
3. ブルックリン・グランジをきっかけにニューヨークの都市農園は700 カ所以上に増えました。(写真/ロイター)
ソウル―漢江の中洲を都市農園に
韓国・ソウルでも近年、市政府と非政府組織(NGO)「ソウル・グリーン・トラスト」の取り組みにより都市緑化の面で大きな成果が挙がっています。2015 年、ソウル市は「ソウル都市農業2.0」政策を発表し、市民が歩いて10 分以内で農業体験を行えるようにと、2018年までに市内の農地面積を約5 倍に当たる420 ヘクタールまで増やすことを目標に設定しました。
同政策の象徴的な存在となったのが漢江の中洲、ノドゥル島のケースです。当初、この島にはオペラハウスが建設される予定でしたが、後に都市農園の開発に変更され、畑のほかに野菜を販売する即売センター、ドーム型のネットハウス、養蜂エリア、堆肥エリア、温室、種子貯蔵スペースなどが設けられ、市民の農業への参画を促しています。

4.1.5_日本人力資源公司PASONA將農場引入辦公室內。(圖/路透社提供).jpg
4. 日本の人材派遣会社、パソナはオフィス内に農園を導入することに成功しました。(写真/ロイター)
 

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