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北村豊晴さんの映像人生 (TAIPEI Quarterly 2016 冬季号 Vol.06)

アンカーポイント

発表日:2017-03-23

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20代、30代、40代
北村豊晴さんの映像人生
_ 江欣盈
写真 _ 北村豊晴

「中年の危機(ミッドライフ‧クライシス)を迎えた父親、“空の巣症候群”の母親、そして仕事、恋愛、人間関係と青春の問題に直面する3人の子ども」これは北村豊晴監督の最新作「植劇場—恋愛砂塵暴」のメインテーマです。北村監督は一貫してユーモアあるオーバーな視覚表現で、幻想とリアルの間のシチュエーションを軽妙に描き出します。従来の純愛物語のスタイルを打ち破り、現実をありのままに描く社会に寄り添った脚本には緊張感があり、観客は大笑いしながらも登場人物の姿に慣れ親しんだ日常を見出すかのようです。北村監督が撮るそれぞれのシーンに、私たちは台北のさまざまな暮らしの姿を垣間見るだけでなく、この大都市に生きる自分を見ているのです。
TAIPEI 夏季号 2016 Vol.06 北村豊晴さんの映像人生
▲ (写真/北村豊晴)

片道切符で未知の世界へ飛び込んだ青春
「役者はある種の武器を持つべき。言語はまさに武器のひとつです」1997年、小劇場で働いていた北村監督は大阪を離れて、中国の北京中央戯劇学院に留学します。中国語を勉強しながら演技を学び、流暢な中国語を話す日本人俳優になることが目標でした。しかし中国での生活が4か月経った頃、北京での学費と生活費が非常に高かったことから夢への道を一度離れて働くことにしました。彼は台湾からの留学生のアドバイスを聞き、台湾へ行ってアルバイトをして学費を捻出することにしました。貯金ができたら北京へ戻るつもりでしたが、文化、生活、金銭感覚など故郷である日本と似ているこの国にだんだんと魅せられた北村監督は、それから20年ずっと台湾に留まっています。
TAIPEI 夏季号 2016 Vol.06 北村豊晴さんの映像人生
▲ 普段は穏やかな監督も仕事となると集中した厳しい表情になります。(写真/北村豊晴)

「そこで初めて台湾に触れました。でも振り返ってみると身の周りにはいつも台湾人がいましたね」北村監督は以前アルバイトで知り合った台湾人が開いた東区(市東部の繁華街)のヘアサロン「中村龍馬髪芸」で、台北で最初の仕事を始めました。映像産業へ本格的に足を踏み入れるまで、北村監督の生活はヘアサロン、日本料理店、カレー店からイタリア料理店まで、そして政治大学の語学学校、台湾芸術大学、それから台北芸術大学へと、出会いによって変わり続けました。北村監督の青春映画は木柵、永康街、東区、関渡で順番に上映され、理由なくエンストし続けるベスパは無力感に満ちた忘れられないシーンとなって心に残っています。
台湾へ来て1年目、日本料理店でアルバイトをしていた時、北村監督は台湾を去ろうと思ったことがあったそうです。「でもある台湾人の同僚が『きみは才能があるからもう1年頑張れ、そうしたら何をやっても必ず成功するよ』と真剣に言ってくれたんです」単調な日々の中でこのようなまっすぐな賞賛が決定的な力になったのかもしれません。北村監督は台湾に留まろうと決心しました。当時の目標は「台湾で中国語の映画を撮る最初の日本人になること」でした。十数年が経ち、北村監督は長編映画2作、ドラマ3作を監督し、多くの作品に製作や演出としてかかわっています。彼にとって台湾は夢の生まれる場所になっています。
「良い脚本と、必ず90点以上の内容のフィルムに仕上げれば、撮影後の編集には良い素材が残ります。加えてぴったりの音楽があれば、必ず良い作品に仕上がります」言い換えれば、作品が観客に与える愛おしさ、感動、笑いは、チーム全体が作品に対して一貫した厳しい姿勢で取り組むことによって生まれます。「恋愛砂塵暴」の撮影は求めても出会うことのできない巡り合わせで実現しました。「監督がすぐに作品にしようと決める脚本は多くありません」北村監督はこう言います。脚本家の温郁芳さん、張可欣さんによるきめ細かく練られた脚本と、北村監督の荒唐無稽で風変わりな表現方法で、脚本の中の人物がレンズを通じて観客の目の前に踊りだし、物語は立体的に生まれ変わって共鳴を生み出します。「脚本を見た時、自分のことを書いているのではないかと思いましたよ」北村監督は笑いながらこう言います。時に荒唐無稽さが人生の真実であることもあります。

「北村」から「北村家」に
2010年、北村監督は両親を台湾へ呼び寄せて大安区に日本料理店「北村家」をオープンします。40年の経験を持つ料理人であるお父さんは北村家の味を台北で再現し、一家三代がこの地に根を下ろしました。北村監督は毎週、両親のために教師を呼んで中国語のレッスンをしてもらっています。まだ勉強中なので、言葉が通じないことが多くの笑い話になっているそうです。「母がタクシーで『通化街(トンホワジエ)』へ行こうとしたのですが、運転手さんは『通河街(トンホージエ)』と聞き違えて士林まで行ってしまいました。父は自転車本体より高いイタリア製のヘルメットを買って母に怒られていました」北村監督は泣き笑いしながらこう話してくれました。「台北のMRTやバスは本当に便利です。両親も自分たちで動くのが面白いようです」MRTに乗ってマンゴーかき氷や小籠包などグルメを楽しむのが彼らの一番のお気に入りで、北投公園へ行って「ポケモンGO」で遊んだこともあるそうです。
TAIPEI 夏季号 2016 Vol.06 北村豊晴さんの映像人生
▲ 北村監督と両親。門の右側に掲げられた「北村家」は日本の表札と同じでうちへ帰ってきたような味わいがあります。(写真/北村豊晴)
 
学生時代、北村監督は万華一帯を撮影するのが好きでした。この町の古く伝統ある姿に魅了されていたのです。現在1男1女を持つ彼は、休みの日になると2人の子どもの希望を両方叶えるために知恵を絞り、東区、北投、陽明山、大稲埕、通化街など台北のさまざまなエリアへ足を運んでいます。俳優、監督、居酒屋のオーナー、そして2人の子どもを持つ父という顔に、来年は作家という顔が加わります。台湾で過ごした20年で起こったあれこれを中国語で書くのだそうです。最初の10年で夢を叶え、次の10年で北村家は1人から6人になりました。では次の10年は?「ラブコメディをもっと撮りたいですね」映画の夢はこれからも必ず取り組み続けるという北村さんの作品を楽しみに待つことにしましょう。

北村さんのとっておきグルメ
TAIPEI 夏季号 2016 Vol.06 北村豊晴さんの映像人生

▲ (写真/北村豊晴)
北村家くるみ小料理屋
楽利路17号
0929-200-518
仕事が終わったら「北村家」へ!
北村監督が両親と切り盛りする居酒屋は日本の家庭料理と楽しく温かな雰囲気で、仕事の後に友達と会って食事を楽しむのにぴったりです。


南川麺館
和平東路3段91号
(02)2732-5580
「いつも汁そばと、汁なしの麺を1つずつ頼みます」思い出すだけで北村監督の食欲をそそる素朴な味わい。多彩なおかずも人気の商品です。

史大華精緻麺食
安和路2段74巷4号
(02)2706-4436
看板料理の牛肉麺はシコシコの鶏蛋細麺(たまごを練りこんだ麺)と台湾産牛肉を使っており、濃厚ながらさっぱりとした味わいです。

巧之味手工水餃
済南路2段6号
(02)2321-4693
「貝柱入りを10個、その他の2種類を5個づつ頼みます」北村監督が大好きな水餃子の専門店です。オリジナル、ニラ、貝柱の3つの味があり、シンプルですが忘れられない味です。
 

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