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ミシュランも愛する美食の都・台北 (TAIPEI Quarterly 2018 夏季号 Vol.12)

アンカーポイント

発表日:2018-06-19

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ミシュランも愛する美食の都・台北

吳家宇

写真 精鏡伝媒・写真部


ミシュランによる評価が「職人魂」を養い、料理が食べる人に与える楽しみをより念頭に置くようになります。
 

発行から一世紀を超え、世界の美食家から美食の決定版と呼ばれる「ミシュランガイド」。ついに今年、台北が世界30番目の都市としてミシュランガイドの仲間入りを果たしました。

海外から来た行楽客に台湾に来たのはなぜ?と聞いてみると、いちばん多いのが台湾のバラエティに富んだ美食を楽しみたい、という答えでしょう。「ミシュランガイド」は2007年、東京を皮切りにアジアに上陸。その後、香港、マカオ、上海、シンガポール、バンコク、ソウルが加わりました。さて、台湾の美食はよく知られ、日本や香港にも匹敵するほどなのに、今の今までミシュランが取り上げなかったのは何故でしょうか。
 

交通部観光局(日本の観光庁に相当)国際組の鄭瑛恵組長によれば、2009年にも同局は世界的に認められている「レッド・ミシュラン(ミシュランのホテル・レストランガイド)」台湾版の発行をミシュラン社に呼び掛けていたそうです。「巨人の肩の上に立つように、より多くの人々に注目される」――美食はかねて台湾を訪れる観光客の目的であり、この世界的なお墨付きが得られれば、台湾の美食がさらに世界的な関心を集めることができるでしょう。


台湾の美食は多元的な姿を持っています。異国の美食だけでなく、伝統的な昔ながらの味わいも見逃せません。(写真/台北市商業処)
 

熱いラブコールで
ついにミシュランを動かす

ではなぜ何年も足踏み状態が続いたのでしょうか。当初は賛助の話も進まず、どの場所を選ぶべきか決めかねる、などなど問題が山積していました。観光局はミシュランの覆面調査員の台湾滞在費用の負担を提案しましたが、調査員の身元は明かせないということで決裂。民間企業の賛助を受けるにしても、政府が仲立ちするわけにもいかず、ということで何年も延び延びになったということです。ようやく昨年になって豊かで活力あふれる食文化を持つ台北が、ミシュラン上陸の第一歩となることが決まりました。
 

何とか話はまとまったのですが、協力関係をどれくらい続けるか、これも見極めが必要です。なぜ一度限りでなく、長期でもなく、5年間という期間になったのでしょう。

鄭組長は、1年だけでは、はかなく散るあだ花のように効果が見込めず、かといって長期になると新鮮さが失われると言います。5年、これがお店にとってももうすぐ実現できる目標が目の前にあると感じられるちょうどよい期間だと見ています。
 

ミシュランで星を獲得した店舗のリストが発表された当日は悲喜こもごも。けれども1年目で獲得できなかったからといってがっかりすることはありません。来年にもチャンスがまだあるということは、前進への大きな力となります。香港でも、1年目は星を獲得したレストランは22軒でしたが、その後2年間はそれぞれ20軒増と約2倍に増えています。台北もこの5年間、美食の奇跡的な成長を見てみたいものです。
 

味のパラダイムシフト 
美食の価値を再発見

ミシュランの評価は台湾の美食に花を添えるだけでなく、台湾の食文化の基盤にパワーを与えてくれます。鄭組長はミシュランの評価が台湾の人々の美食への評価の価値観を変えてくれるのではと期待しています。つまり、「価格」だけを見るのではなく「価値」を考え、ひたすら「299元食べ放題」の大盤振る舞いを追いかけるのではなく、料理人の心意気をかみしめ、喜んでより多くのお金を美食の価値に対して支払うようになるということです。
 

一方、料理人にとっても「職人魂」を養うことが必要になってきます。食材の活かし方を極め、料理が食べる人に与える楽しみを念頭に置き、コストだけを追究するのをやめなければなりません。そうしていくうちに、安いだけの有害な偽装食品を使う隙を与えず、食の安全が守られることになるでしょう。
 

自分を見つめ
地元のおいしさを発信

ミシュランの栄誉が発表されましたが、その結果にはさまざまな意見が寄せられています。星を獲得したのは洋食が多いとか、ミシュランは本当に台湾の人々の好みを分かっているのかとか、庶民の軽食がミシュランの評価に上るのはふさわしいことなのか、などです。
 

食と旅と暮らしがテーマの作家、葉怡蘭さんは、ミシュランという指標的な意義を持つ世界的な評価を受けることは、台湾の美食が認められさらに前進するチャンスだとみています。けれど、私たちがそこから自分自身の食文化をどのように見つめ、ミシュランという基準に左右され本来の持ち味を失わないかは同じくらい重要なことだと言います。
 

かつて料理界ではミシュランのお墨付きを得るため、郷土料理であってもフランス料理をまね、似ても似つかないものを作るということがありました。「真にローカルなものこそ真にグローバルである」、これが葉怡蘭さんが世界各地を歩き回って悟ったことです。世界的に認められようとするなら、自分の特色を見せることが最も大事なのです。
 

台湾では近年、自分たちのものに対する評価が上がり続けています。今回、ミシュランに選ばれた洋食のレストランは、いずれも素晴らしい形で台湾の食材と風味を西洋料理の手法に合わせ、オリジナルな味わいの料理を生み出しています。これこそ本当の「ファインダイニング(食を芸術の域に高めること)」の精神です。そもそも台湾料理のほかは、地元の特色を取り入れれば、独特の台北風味が味わえる異国料理となり、それこそが他では味わえない美味しさを味わうために何度も人を引き付けるものとなります。

 

台北の食文化は多元的で、料理人は地元の食材と風味を西洋料理の手法に合わせ、オリジナルな味わいを生み出しています。
 

美食探訪を旅の新しいブームに

「都市を知るのにはその美食を食べるのがいちばんいい」――ミシュランという信頼のおけるガイドがあることで、海外の旅人が地図で「食」を訪ね歩く、これも台北の観光を盛り上げる大きな誘因となります。研究者も台北のミシュランガイド発表は、ミシュラン食べ歩きをする観光客が約10万人増えると見ています。
 

葉怡蘭さんは東京がアジアで初めて「ミシュランガイド」に取り上げられたとき、もともと遠かった欧州のミシュランが突然身近になり、近隣諸国も大いに色めき立ったと振り返ります。実質的な観光への貢献がどれくらいあるかはさておき、「ミシュランガイド」は自分たちの街の美食に海外の人々を引き付けることができます。台湾に来たいという考えがもともとあった人でも、これが明確な街歩きの目標となります。
 

鄭組長が、このガイドは発行の予告から本当に発行されるまでだけでも、非常に大きな話題になったといいます。香港のテレビ局も発表に先駆け台湾で星獲得のレストラン予測の番組撮影に来ました。発表されてからはマレーシアからも星獲得の店を取材するなどメディアの注目は予想以上です。「取材はミシュランだけに集中することなく」、ミシュランに取り上げられた店の話題だけでなく、台湾全体の美食環境を紹介したりと、一連の報道や番組を通じて波及効果が期待されています。
 

舌が喜ぶ 美食で都市PR

台北市観光伝播局の陳思宇局長は、美食はかねて台北のPRの重点であり、もう一つ世界的な評価が増えたことで、「台北は名実兼ね備えた美食の都」だということを発信できると言います。ミシュランは今年の観光見本市の目玉ですが、ツツジフェスティバルで美食を食べよう、など大型イベントにも新たに説明が加わっています。それに海外の人々にもミシュラン巡りを呼び掛けられます。
 

陳局長によると、同局では「美食でスポットをつなぐ」プランをすすめています。例えば台北の西地区はランプウェイ撤去で北門がかつての姿を取り戻し、ここだけの歴史的な街角が見られるようになりましたが、そのほかにも付近で世界的な評価を受けた美食が味わえます。また、「星付き巡りバス」コースは、動画をインターネットで発信、台北に来たことのある観光客を美食でもう一度引き付けようという狙いです。
 

台北市産業発展局もここ数年、「台北老味道(台北の昔ながらの味わい)」や「国際美食在台北(世界の美食は台北にあり)」など台北のさまざまな食をまとめています。また10年以上にわたり伝統市場フェスティバルを行ったり、快車肉乾(ジャーキー店)や億長御坊(惣菜店)、童家饅頭(マントウ店)といった街角の有名屋台や市場の美食を発掘しています。今回のミシュラン効果に乗じてさらに台北の多元的な美食の姿を世界に発信することが期待されています。

これまで台湾の美食に対する観光客のイメージは夜市の小皿料理止まりでしたが、今やミシュラン台北版のリリースで台湾の美食に新たな姿が加わりました。
 

観光以外で実現できることとは

ミシュラン台北版のリリースがもたらす観光への貢献は、実際の経済面でみると、観光客の食についてリーズナブルでよく知られる庶民の小皿料理だけでなく、高めの星付きレストランという選択肢を増やし、台湾での消費金額を引き上げると期待されます。葉怡蘭さんはより前向きにこれをとらえ、台湾の美食に対する世界からのイメージは、ナイトマーケットの小皿料理から高級料理まで広がり、これまで注目されていなかった細やかな機微や深みといった面を見てもらえると考えます。
 

「観光の発展をミシュランだけに頼るわけにはいかない」、国立高雄餐旅大学の劉喜臨副校長はこう言います。ミシュランが観光振興に一役買うことが大きく期待されている中で、もちろん一定の効果はあるが今大事なのはこれをてこにして台湾を広く発信し、旅行の目的地として観光客に重視される場所になることだとの見方を示しています。
 

政府の立場に立つと、観光や宿泊といった関連産業のサポートが必要です。ミシュランの星を獲得した料理人のデモンストレーションや、ミシュランに選ばれた料理の食材がどこから来ているかという「ルーツ探しの旅」を計画するなどしてはじめて、リソースがの有効利用ができるわけです。

劉局長はまた、飲食業者も自身で一連のプランを立てることが必要だと言います。これまでホテルなどは時にミシュランの星を獲得した海外の料理人を訪ねて学んでいましたが、今回3つ星を獲得したホテル・パレ・デ・シンの「Le Palais(ル・パレ)頤宮」の料理長が、同じ雲朗観光集団(LDC)系列のホテルを巡るなどすることもできます。その他の星を獲得した料理人たちも、中南部のホテルでゲスト料理人を務めるなどすれば、ミシュランの効果はさらに拡大することが期待できます。
 

「隣の芝生は青く見える」とは言いますが、台湾にも美食のプロや協会など関連団体がたくさん存在しています。劉局長は、私たちもこういったリソースを活用し、オリジナルの食の評価制度を整えることも可能だと言います。ホテル・レストラン学科のある学校などがコンサルタント役を務め、台湾のさまざまな系統の料理研究を評価の参考とし、学会の力を発揮することもできます。「ミシュランとともに学び合うことが、最も重要なのではないでしょうか」。
 


 

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