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台北の建築から見る歴史の変遷 (TAIPEI Quarterly 2020 秋季号 Vol.21)

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発表日:2020-09-16

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TAIPEI #21 (2020 秋季号)

台北の建築から見る歴史の変遷

文 / Catherine Shih 編集 / 下山敬之 写真 / Taiwan Scene、Yenyi Lin、jon-flobrant


各国の文化が入り混じった台北独特の建築構造は、100年を超える歴史の変遷によって生まれました。特に日本統治時代から現在に至るまで都市の発展や開発を受けて建築物はさまざまな変化を遂げています。各時代の名残を見つけるには、建築の移り変わりを見ていくのが一番確実です。清朝統治時代以降、保安宮に収蔵されている「交趾陶」という芸術品の鑑賞もお勧めですし、戦後も姿を変えずに残っている中華民国総統府などに足を運ぶと変化の軌跡がよくわかります。_YY30016cut▲美しい赤レンガと石の彫刻を特徴とするレトロな建築物は大稻埕の代表的な風景となっています。

2020 年は、台北市設立100周年の節目ということもあり、台北随一の建築史学者兼ガイドの鄭勝吉(ジェンシェンジー)氏を招き、台北変革の背景にあるユニークな歴史についてお話を伺いました。
 
未命名-1鄭勝吉
10歳から建築に興味を持ち、大学でも建築を専攻。40年近く建築業界に従事し、台湾の歴史的モニュメントの研究をしてきた経歴から伝統建築を紹介するガイドも務める。台北の建築美を歴史的観点から鑑賞するというスタイルで、台北に残る各時代の建造物の素晴らしさを理解してもらうためのツアーを行っている。


Q: 台北の建築とその外観はいつ頃から変化していったのですか。
台湾の歴史は植民地として統治されてきた時代ごとに特徴づけられることが多いですが、建築の歴史においても同じことが言えます。建築史学者として建築物の変遷を論ずる際に、私たちはオランダ統治時代を始まりとして、スペイン統治時代、明鄭統治時代、清朝統治時代、日本統治時代、第二次世界大戦後以降と、それぞれの植民地時代で分類することが多いです。各時代の建築の名残を見る際には、まず歴史と政治の影響を認識することが重要です。特に台湾の発展は、台湾南部にある台南から始まり、徐々に台湾北部へと広がったため、台北の建設と発展は比較的遅くから始まりました。したがって、台北の建築の発展に影響を与えた主な時代は、清朝統治時代、日本統治時代、第二次世界大戦後の3つの時代に絞られます。_YY30067cut▲建築物の彫刻芸術を細かく観察すると、西洋とローカルの彫刻の特徴が混ざり合っていることがわかります。

Q: 各時代における台北の建築スタイルと主な特徴を教えて下さい。
清朝統治時代は、現在の福建を中心とした閩式と呼ばれる建築様式が主流でした。木材、赤レンガ、白の石壁、木彫りの立体装飾、壁画が主な特徴で、一部の寺院の屋根には交趾陶が使用されていることもあります。

日本統治時代は、西洋化した日本の影響から西洋の文化が流入しました。黒い瓦屋根に完全木造建築という伝統的な日本家屋も建造されましたが、日本の伝統的な建築技術と西洋の様式が融合した建物が大部分を占めていました。こうした建物には多くの流派が存在し、その中には英国ビクトリア朝時代の建築や、石を使って堅固で壮大な外観を作り出したドイツの新古典主義建築など、ヨーロッパの影響を受けたものがあります。また、この他にも折衷主義建築というものもあり、これらは通常、近代のセメントで建造され、大きなアーチ型窓、西洋彫刻、日本家屋の黒い屋根瓦といった古典的な装飾が施されていました。_YY30069▲バロック様式の装飾とアーチ構造の窓などの西洋建築特徴は日本統治時代に台湾に伝来したもので、大稻埕にある多くの建物でそれらの痕跡を見ることができます。

最後に第二次世界大戦後ですが、2つの重要な建築様式が存在します。その1つである地域主義は一種の「レトロ」建築様式であり、伝統的な中国建築様式や閩式建築の特徴を盛り込むことで地元の建築物を守る目的があります。1981年以降はモダン建築様式が台頭し、諸外国と同様に、さまざまな形の建物や個人のスタイルを反映した建物が台北にも次々と出現していきました。TAIPEI -2020-9月號 日文內頁[300dpi-單頁-無裁切線]_41_1

Q: 古跡や建築物の保存に関する問題や課題について教えて下さい。
台北に関しては、多くの人々が1960年代まで古跡を保存することの重要性をあまりよく認識していなかったことが問題でした。当時、こうした史跡の保護または保存のための国の法律や予算が定められていなかったのです。加えて、当時は急速な近代化を進めるために、深く検討せずに多くの古い建物が解体されました。そのため、当時は突然「隣のあの古い建物がなくなった」と気付かされることがよくありました。

大衆の考え方を一変させた大きな転機となったのが林安泰古厝でした。当時、この住宅は、現在の敦化南路エリアにある、シャングリ・ラファーイースタンプラザホテル台北 (台北香格里拉遠東国際大飯店)の真向かいにありましたが、道路の拡張に伴い解体のうわさが地域内に広がりました。これを受けて、こうした歴史的建築物の保存に対する意識が徐々に広がり始めたのです。地元のアーティストや文豪たちが、この伝統的な閩式建築を守るために立ち上がったことをきっかけとして、1982年に文化資産保存法が制定されました。最終的に、林安泰古厝は保存をするために移築されました。政府はこれを機に歴史的な古跡の分類と、新しい法律に則った長期保存計画の策定に積極的になっていきます。tt-L1280861▲閩式建築の代表である林安泰古厝は、古蹟保護運動後に中山区へと移築され、その後長きに渡って保存され続けています。(写真/Taiwan Scene)

ただ、残念なことに法律だけではこうした歴史的建築物を保護することはできせん。古い建物の所有者は、実は地元住民だったりするのですが、史跡を保護することの価値や重要性を教えられたり、自ら学んだ経験がありません。建物があまりに古い場合は、保存に多額を投じるよりも最高額を提示する請負業者に売却してさっさと利益を得ているのが現状です。そのため、当局が文化遺産保存を推進することがとても重要ですし、各復元プロジェクトの品質や実行に直接影響する予算の割り振りも必要になります。さらに、世代を減るごとに様々な技術が失われてしまうため、復元の知識と技法を受け継いでいくことも同様に重要となるでしょう。

Q: 台湾の代表的な建築家と作品で知っておくべきものはありますか。
1950年代から1960年代にかけて、海外で勉強をして台北に戻ってきた建築家が急激に増えました。彼らの多くは、ヨーロッパやアメリカの著名な建築家に師事した人たちで、台北のモダン建築に多大な影響を及ぼしました。

その中の1人が米ハーバード大学建築学部を卒業した王大閎(ワンダーホン)で、ルーヴル美術館のピラミッドなどを手掛けた建築家イオ・ミン・ペイ氏と同窓です。彼の作品は国立国父紀念館、台湾大学法学部万才館などで展示されています。また、王氏が独身時代に住んでいた建国南路の自宅も興味深いです。赤レンガを使用しているだけでなく、床から天井まである大きな窓、中庭の設置など当時の人々にとっては、そのすべてが新しいコンセプトでした。住宅は後に解体されましたが、最近になって彼の教え子数名が資金調達を行い、正確なレプリカを再建しました。レプリカは、「王大閎建築劇場」として現在台北市立美術館の隣に展示されています。tt-外觀特色紅磚與落地窗L1280873▲王大閎の自宅は台北市立美術館の横にある公園内に再建され、一般開放されています。(写真 /Taiwan Scene)

もう1人、同時代の建築家で忘れてはいけないのは、蒋介石が名付け親となった修澤蘭(ショウザーラン)です。当時、台湾の建築界には人しか女性建築家がいませんでしたが、その中でとりわけ存在感を放っていた修氏は、「台湾初の女性建築家」として名をはせました。その作品は、レトロな地域主義建築を代表するもので、陽明山中山楼、台北市立景美女子高校の図書館と管理棟など、著名なものが多数あります。

Q: 台湾を訪れる外国人観光客に一番お勧めしたい台北の建築物とその理由を教えてください。
台北にある建築の変遷を体験するなら、まずは大稲埕埠頭の周辺を巡ることをお勧めします。前世紀からの建築の移り変わりのほぼすべてが、この街の5平方メートルほどの小さな一画に集約されています。たとえば、台北霞海城隍廟といった寺院には、屋根に飾られた交趾陶や閩式の建築物、壁画もいくつか見られます。また、迪化街を訪ねると折衷主義建築様式で建てられた老舗漢方薬店「乾元参薬行」など、日本統治時代の建築物もたくさんあります。_YY30032cut▲鄭先生は初めて台北に来るなら、大稻埕と迪化街を歩いて現地の風情を味わってみてほしいと話します。
_YY30162cut​​​​​​​​​​​​​​▲乾元藥行の建物に刻まれた高麗人参の彫刻は、日本統治時代に流行した折衷主義建築の影響を受けています。

こうした建物の屋根には家紋や商い(台湾茶、漢方薬など)、生涯にわたる繁栄を表す猫や野菜の穂先など様々なシンボルがヨーロッパ様式の彫刻で刻まれています。顔義成商会などもこの様式で建造されたましたが、新旧の建物が混ざり合うことで台北市内に平和と調和を作り出しています。付近には様々なお店があるので、建築物を楽しみつつ、地元のグルメや音楽、文化なども楽しめます。まだ来たことが無い方は、ぜひこの地域を訪れ、台北の建築の歴史に浸ってみてください。_YY30176cut​​​​​​​▲顔義成商行

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