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士林の歴史と近代の発展 (TAIPEI Quarterly 2021 冬季号 Vol.26)

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発表日:2021-12-10

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TAIPEI #26 (2021 冬季号)


士林の歴史と近代の発展

文: Richard Williams
編集: 下山敬之
写真: Taiwan Scene、士林小学校、中正文教中心、国立伝統芸術中心、台北表演芸術中心、Max Oh、Yengping


陽明山国家公園と淡水河の間に位置する士林は、清朝時代からその歴史が始まりました。1700年代以降に台北北部の重要な郊外都市となった場所で、食と文化の中心地として知られる現在でもかつての寺院や歴史的価値のある重要なモニュメントが残っています。

かつての政治、軍事指導者である蒋介石(ジャン‧ジェシー)を始めとする国民党のメンバー達もこの地を好み、この近くに台湾で最も有名な2つのランドマーク、圓山大飯店と国立故宮博物院を建造。さらに、蒋介石元総統の邸宅もこの士林にあり、妻の宋美齡(ソン‧メイリン)とともに26年間に渡ってこの地で暮らしました。

近年では、世界的に有名なナイトマーケットがあることから観光地として大きな発展を遂げています。水煎包やタピオカミルクティー、クラフトビール、ベトナム料理など、台湾の伝統料理からモダンな地域料理、そして各国の料理まで、数十年の歴史を持つお店や屋台がたくさんあります。

しかし、士林に向かうのは食通の人たちだけとは限りません。台湾の文化に興味がある人たちも士林を訪れます。

2017年にオープンした「台湾戯曲中心」では、数百年の歴史を持つオペラの公演が行われていますし、2022年にオープン予定の「台北表演芸術中心」は、この地域の新しい文化的象徴となるでしょう。

TPAC©林軒朗 (4) (Copy)▲現在の士林は台北表演芸術中心のような革新的な建築物が増え、かつてない発展を遂げています。(写真/台北表演芸術中心)

どちらの会場も印象的で斬新なデザインに注目が集まっています。夜市やエンターテイメントなど歴史ある文化と近代的なデザインの建造物を体験できる士林は、過去と未来にひたりながら、「娯楽」と「食」が楽しめる街なのです。

軽食
士林夜市は台北で一番有名なグルメスポットです。夕方には現地の人だけでなく海外から来た観光客たちが食事やショッピング、娯楽を目的に士林へと集まってきます。高校生や大学生などは放課後に友人や恋人と一緒に士林夜市を訪れ、年配の方々は友人と会食をしたり、何十年も通っているお店や屋台に顔を出します。また、空港から直接訪れる外国人も多く、香港をはじめとする近隣の都市からグルメツアーで足を運ぶ人も少なくありません。

max-oh-oGz1_elJhws-unsplash (Copy)▲台湾の様々な屋台料理が集まる士林夜市は、現地の人や観光客が多く集まる活気に満ちた場所です。(写真/Max Oh)

士林夜市は2011年のリニューアルによって、道路沿いに並んでいた屋台が地下のフードコートへ移動し、地上には商品を販売するお店か、射的やくじ引きなどのお店だけが残りました。フードコートにはフライドチキンや臭豆腐、花枝丸、焼き肉まんなどがあり、台湾の定番屋台料理が一度に味わえます。新しくできたビルの北側には、さらに多くのお店やレストラン、屋台といった飲食店が密集している他、歩行者天国の近くには古い寺院や植民地時代の建物、様々なお店が並ぶ士林市場があります。市場は昔から揚げ物や蒸し物、焼き物、バーベキューなどを販売している台湾の地域性を色濃く反映した場所となっています。

水を活かした士林の歴史
圓山水神社は日本時代に建てられた神社の中でも現在まで残っている数少ないスポットです。台湾の植民地時代と1900年代の士林の発展を象徴する場所で、非常に魅力がありますが、あまり知られていません。

この建物はMRT剣潭駅からすぐのところにあり、生け垣が美しい庭園と広大な芝生の中に建っています。日本軍が台湾を当地していた1895年から1945年の間に、200以上の神社が建てられました。圓山水神社はその中の1つです。植民地時代には人口が急増した首都に水道を引くという当時最大のプロジェクトが計画されました。1930年頃に日本軍は陽明山に降った大量の雨を士林の貯水池に流すための水路建設に着手します。

圓山水神社2-Edited (Copy)圓山水神社1-Edited (Copy)▲圓山水神社は日本人が台湾に残した近代的なインフラです。

その工程で何人かの作業員が事故に遭って亡くなりました。貯水池で働く作業員たちは、神道の水神を祀るだけでなく、亡くなった同僚たちを追悼するために、彼らを称える資金を集めました。

その後、多くの神社が撤去されるか中国的な神社に改築されましたが、圓山水神社は台湾水利公司陽明支社が保護し、敷地を譲り受けて改築されたために、取り壊しを免れました。

目印となる石灯籠から石段を上がると中華風の東屋があり、中には水神を祀る小さな木造の家があります。この付近一帯は手入れが行き届いているものの、忘れ去られたような物悲しさを感じさせます。本殿の他にもお清めの泉や獅子の石像などもあり、神社らしい雰囲気が残っています。探検が好きな方やこういった隠れスポットが好きな方は、ぜひ散策をしてみてください。山道を登られる方は20世紀後半に廃止され、埋め立てられた古い貯水池の形跡を探してみるのもおすすめです。

ワーク&プレイ
日本人は士林で台湾のインフラを整備・拡張しただけでなく他の公共施設の建設にも着手しました。この地区にある八芝蘭公学校は日本人が設立した台湾初の教育機関です。当初は木造の建物でしたが、1914年にレンガ造りの校舎に建て替えられ現在に至ります。1921年には士林公学校と改称され、最終的に士林小学校の一部となりました。現在では士林の地域史を語る上で欠かすことができない場所です。建物には20世紀初頭に流行したアーチ型の窓やドアがそのまま残っており、伝統的な門柱のある入り口には、今でも八芝蘭公学校の看板が立っています。2017年には文化部から重要文化財に指定され、学校内の歴史的な遺物を保管しています。

八芝蘭公學校1(by Shilin Elementary School )-Edited (Copy)▲士林小学校の敷地内には、かつて八芝蘭公学校だったころのクラシックな旧校舎が残されています。(写真/士林小学校)

八芝蘭公學校2(by Shilin Elementary School )-Edited (Copy)▲日本式の教育が行われていた時代は生徒たちが集まって体操をしていました。(写真/士林小学校)


士林の近くにある台北市児童新楽園は、台北の子供たちにとってのディズニーランドと言えるでしょう。台湾で最も歴史の古い施設でありながら、最も新しく作られた遊園地でもあります。ここは1937年に日本軍が圓山地区の子供たちに向けて建設した遊園地です。後に何度かの経営者の交代を経て、2014年に市政府が最新の遊園地をオープン。メリーゴーラウンド、観覧車、コーヒーカップ、バンパーカーなど昔馴染みの乗り物を目当てに、年間を通して多くの家族連れが訪れます。

兒童新樂園(by Taiwan Scene)-Edited (Copy)▲様々なアトラクションが揃っている児童新楽園は、大人から子供まで思いっきり楽しめる場所です。


アートハブ
士林で最も重要な近代的文化施設と言えば、台湾戯曲中心と台北表演芸術中心のつです。2016年に設立された台湾戯曲中心は非常に特徴的な外観をしています。外壁には、空に向かって真っ直ぐ伸びる色とりどりの格子が付いている他、施設は3棟の建物で構成されています。3棟のうちの1つは広々とした建物、残り2つは天井の高さの異なるスクワット状の建物です。このデザインは中国の伝統演劇の演出に用いられる「一桌二椅(1脚のテーブルと2脚の椅子)」をイメージして作られています。施設内には劇場や上演ホールがあり、台湾音楽館、台湾国楽団、国光劇団といった団体の本拠地でもあります。台湾オペラをはじめ、台湾や世界各国の伝統芸能や音楽を楽しむために街中から多くの人たちが訪れます。また、台湾戯曲中心は台湾の伝統芸術の活性化を目的とした「伝芸金曲奨」という賞も主催しています。

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▲台湾戯曲中心は伝統的な中華式演劇で用る道具をデザインコンセプトとした建築物です。(写真/国立伝統芸術中心)

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台湾戯曲中心で披露される演目には伝統的な演劇と現代的なスタイルが取り入れられています。(写真/国立伝統芸術中心)

台北表演芸術中心は、スペースエイジという近未来のデザインを取り入れた施設です。外から見るとガラス張りのキューブ状の建物からから銀色の建物と地球儀を模した球体が飛び出るように配置されています。これらはホールになっていて、中にはステージを取り囲むように客席が配置されるなど、施設内も先鋭的なデザインとなっています。各国のパフォーマーがダイナミックで洗練されたパフォーマンスを披露できる場所です。


旧大統領官邸
士林官邸は日本時代には園芸実験場として、その後、台湾に撤退してきた蒋介石夫妻の住居として利用されました。二人は戒厳令が敷かれていた時代に、蘭やバラが咲く庭園の中で快適に暮らしていました。


かつて園芸実験場として利用されていた士林官邸は西洋的な雰囲気が漂っています。(写真/中正文教中心)▲かつて園芸実験場として利用されていた士林官邸は西洋的な雰囲気が漂っています。(写真/中正文教中心)

1996年には庭園が一般公開され、それまで知ることができなかった内部が見学できるようになりました。施設内は伝統的な中国式庭園や西洋式庭園があり、春にはチューリップやバラ、秋には菊の花の展覧会が催され、各地から花が好きな人たちが集まります。2011年にはリビングルーム、ダイニングルーム、ベッドルームを含む本邸も一般公開されたので、かつての台湾のリーダーの生活空間を見学してみましょう。

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▲以前は秘匿されてきた士林官邸ですが現在は一般に開放され、現地の人や旅行客が訪れる観光スポットとなっています。(写真/上:中正文教中心;下:Yengping)

今では地元の人や観光客が午後のひとときを過ごすために訪れます。また、この建物は台湾が権威主義から民主主義へ移行した象徴であり、士林が歴史を守りながら近代化していることを示す例と言えます。


 

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