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台湾の伝統人形劇の保全、ロビン・ルイゼンダール

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発表日:2023-12-11

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TAIPEI #34 (2023 冬季号)

台湾の伝統人形劇の保全、ロビン・ルイゼンダール


  ジェナ・リン・コーディ
編集 下山敬之
写真 Samil Kao

fs_1▲ロビン氏は台湾の人形劇に人生を捧げてきました。

手使い人形をつかった人形劇(布袋劇)は、台湾の伝統芸能であり、観客の変化に合わせて現代化された数少ない郷土芸能のひとつです。今日では伝統と現代性が共存した内容になっています。かつての人形劇は神々や人々のために上演されましたが、人形を使ったテレビドラマは今も世代を超えて愛されています。台湾の人形劇は、熱心な人形の操者や保存活動家をはじめ、世界的な関心を集めています。

ロビン・ルイゼンダール氏もその文化に魅了された操者の一人です。オランダ出身、台湾在住33年のライデン大学中国学の博士ロビン・ルイゼンダールは、昔は台原アジア人形劇博物館館長で、1997年台原芸術文化基金会の林經甫氏と協力し、台原人形劇団を成立した。博物館は2020年に閉館した。そのあと、林氏は国立台湾博物館に人形劇関連の作品を一万点以上寄付した。

ロビン氏は台湾人形劇普及への多大な貢献により、台北市の名誉市民となり、2019年には台湾・フランス文化賞を授与されました。

現在では台湾、日本、マレーシアのプロジェクトに積極的に参加しています。また、花蓮にある国立東華大学で講義をするかたわら、国立台湾博物館に収蔵される林博士の蒐集品の研究を続け、展覧会を企画しています。

fs_2▲▼ロビン氏が『マルコ・ポーロ』の人形を紹介している様子。この劇はロビン氏と台湾の国宝級のあやつり人形師、陳錫煌氏が共同企画したものです。言語はイタリア語と閩南語を使用しており、伝統と革新を組み合わせた新古典的な演劇となっています。
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台湾での暮らし

ロビン氏は台湾に移住するまでの数年間を中国で過ごし、主に中国南部の人形劇と、1920年代以降の中国における宗教的・社会的変化との関連に着目したフィールドワークに取り組んできました。

「1991年に台湾へ渡ってからは、中国とは対照的な台湾の暮らしを満喫しました。中国社会を研究者から見て、台湾社会は宗教や社会関係を含め、元来の生活様式をより多く保っています。実に目から鱗が落ちる体験であり、ここがとても気に入りました」とロビン氏。

政治、文化、人形劇芸術の交わりについて、ロビン氏は「中国文化において、祖先崇拝や地域の寺院を中心とした宗教生活は欠かせません」と指摘します。長江以北では、中国共産党がこの重要な文化を根絶させてしまいました。「それは人生におけるある種の道徳的な羅針盤でしたが、私に言わせれば、まともに機能しない共産主義のイデオロギーに取って代わられてしまったのです」。

台湾の人形劇文化

ロビン氏によれば、人形劇は「民衆芸術」です。これは台湾で最も一般的な現代演劇と伝統演劇の形態であり、現在は約200の劇団が活動しています。

伝統の観点から見て、その根強い人気の理由の一つに、この民衆芸術が民衆のためだけでなく神のためのものであるという事実があります。人形劇は、観客に向けた出し物というよりも神への奉納芝居として、台湾各地の寺院で上演されます。実際、観客がまったくいない状態で上演されることもあります。

寺院の演目には、宗教的な前奏曲、地域社会や神々の祝福など、特定の要素が含まれます。世俗的な演目でも、似たような物語をたどり、神や仏など宗教的なキャラクターを登場させることもあります。ですがそこには、「地域社会との宗教的関係が欠けています」とロビン氏は言います。

実際、人形劇の演目において、様々な物語や場面に使われる典型的なキャラクターは、神々には喜ばれますが、必ずしも一般大衆もそうであるとは限りません。「脫衣舞(ストリップショー)」というキャラクターは、演目の中で服を脱ぐシーンがあることから、通常の人形にはない胴体部分も再現されています。

「神々の嗜好は人間的なのです」とロビン氏は説明します。

宗教的な演目でも世俗的な演目でも人気があるのは「笑生」というコミカルなキャラクターです。ロビン氏によれば、「このキャラは金持ちの子供で、愚かな振る舞いをし、女性からはモテず、下流階級の人には意地悪で、上流階級の人にはへつらいます。日和見主義の小賢しいやつですが、とても面白い」とのことです。

また、男性、女性のキャラクターも存在します。例えば、科挙の試験を卒業した男と、美しく辛抱強いが、苦労をしているその妻などです。ロビン氏によれば、「これは中国文化における役割のようなもので、男性として、女性としていかに振る舞うべきか、そして伝統的な中国社会の特色を丸ごと、下品なユーモアを交えて表現している」と説明します。 

台湾における人形劇の観察と実践

台湾は人形文化の保全において重要な存在です。「台湾が他国と異なるのは、1960年代以来、人形劇のテレビシリーズ、映画が続いていることです。台湾はコンビニで人形劇のDVDが買える唯一の場所なのです」。

台湾の人形劇はごく自然に発展してきました。それから日本映画やアメリカ映画の影響を受け、ロビン氏が言うところの「非常にポストモダンな演劇」が生まれました。 

ロビン氏はさらにこう続けます。「1950~1960年代には、舞台上ではほぼなんでもありという、非常にクリエイティブな時代がありました。ベートーヴェンの楽曲や『ハワイ・ファイブ・オー』のテーマが使われるようになりました」。

台湾における手使い人形の姿もまた、長い年月を経るうちに大きな変化を遂げました。かつては彫刻された小さな頭が当たり前であり、小さな目が美しさの基準の一つでした。最近の人形には、目が大きくて顎が細い、K-POPスターのような見た目のものが増えています。

fs_4▲▼ロビン氏が人形の顔の変遷を紹介している様子。韓国のK-POPの影響により、人形の顔も以前よりほっそりした形に変わってきています。
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1950年代から1960年代にかけて、台湾式人形劇は多くの芸術的進路を開拓し、その歴史は大きく発展しました。「非常に奇妙なキャラクターや人形が作られていましたし、現在も作られています」と話すロビン氏。

オランダで演劇を学び、若くして国を出た彼の関心は、長年住んでいる台湾の人形劇の芸術を守ることにあります。もともと人形劇を学ぼうと思ったのは、「音楽、彫刻、刺繍に関連していて、誰も知らなかった草の根的なものを勉強したかったから」だそうです。

台湾においては外国人であることは「異質」ですが、長年住んでいるとそれが当たり前になってしまったとロビン氏は言います。彼は、このように順応することが難しいと感じる人がいることも理解しています。

台湾での30年間、ロビン氏は台北市中山堂、国家両庁院、西門紅楼など、国内のほぼ全ての著名な会場で公演を行ってきました。

他のプロジェクトに加え、彼が現在取り組んでいる、来年の台南市設立400年記念式典のためのミュージカル演劇は、台南の赤崁楼と台北で上演される予定です。

グローバルな観衆を目指して 

ロビン氏は台湾国外においても、台湾人形劇を海外の観衆に紹介することを目的とした多くのプロジェクトに携わっています。マレーシアではペナンに小さな美術館を設計し、日本では大阪で伝統芸能ー伝統芸能のキュレーターを育成するためのパフォーマンスとワークショップを展開しています。

国際的に人気を集めたパフォーマンスとして、ロビン氏は日本統治時代から現代までの台北の物語を描いた2000年代の作品『台北古城』を挙げています。注目すべきは、パフォーマンスが全てミュージカルという点です。
このショーはすでに上演されていませんが、人形劇に興味のある人は、2024 年 4 月の台南市設立400年記念式典に向けてあらかじめ計画を立てておくとよいでしょう。

fs_6▲『台北古城』は台南市設立400年記念式典で上演されます。

現在様々な課題に直面しているとはいえ、台湾の人形劇は、世界の観衆を魅了する大きな可能性を秘めています。アジアでは伝統的な人形劇の娯楽としての価値は下落傾向にあります。人形劇に参加する多くの子供は、「手使い人形劇は一度見たから、もう見なくていい」と感じるのではないか、とロビン氏は考えています。娯楽としての機能を維持することは簡単ではないのです。

そのため台湾やアジア全域での保全活動が不可欠ですが、世界的な関心もまた重要であり、それがロビン氏の熱心な取り組みの原動力なのです。

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