発表日:2023-06-23
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TAIPEI #32 (2023 夏季号)
サステナブルファッション:母親が目指す明るい未来
文:Kai Ping Fang
編集:下山敬之
写真:Jean Chang
ファッション業界による環境や社会へのネガティブな影響が認知されるようになったことで、世界中でサステナブルファッションに対する注目が集まっています。中でも大手ファッションブランドが推進するサーキュラー(循環型)ファッションやアップサイクルといった取り組みが人気を呼び、素材の再利用やリサイクルの促進や廃棄、汚染の削減に貢献しています。
▲張氏は、ポップアップストアなど様々な方法でサステナブルファッションの概念を提唱しています。
元ファッションデザイナーであり、ファッション雑誌「Bella (儂儂)」の編集長を務めていた張倞菱(ジャン・ジンリン)氏は、こうした変化の必要性に何年も前から気づいていたと言います。およそ20年に渡って台湾のファッション業界で活躍した経験から、労働環境の悪い工場や資源の無駄遣い、汚染といった業界が抱える環境問題や社会問題を直接目の当たりにしてきました。彼女は、一児の母親として、未来の子供たちに与える影響を少しでも抑える事に責任を感じ、ファッションメディアから引退。2016年に台湾のサステナブルファッションとサーキュラーエコノミー(循環経済)の推進を目的とする「picupi(挑品)」というブランドを設立しました。
▲張氏は子供により良い環境を提供するため、ファッション業界でサステナブルを熱心に推進しています。
サステナブルファッションビジネスへの参入
張氏がファッション業界が抱えるネガティブな影響に気づいたのは、ファストファッションを題材にしたドキュメンタリー映画『The True Cost』(2015年)を鑑賞したことがきっかけでした。この映画では、労働力の搾取、有害化学物質の使用、不適切な廃棄物処理など、安価なファストファッションの生産に必要な真の代償に焦点が当てられています。これまで注目されてこなかったファッション業界による環境的・社会的影響が明らかになったのです。
張氏は以前にも子を持つ母として、気候変動が与える将来への影響を気にかけていました。そんな中で、「前の世代の人たちが犯した過ちの責任を、なぜ次の世代が背負わなくてはいけないの?」という娘の疑問が張氏には強く響き、彼女は立ち上がることを決意したのです。
▲張氏が主催したイベントや話し合いを通じて、持続可能性への関心が高まっていることが明らかです。
そしてファッションと環境的サステナビリティの結びつきを強固にしたいという想いから、張氏は自らサステナブルファッションのビジネスを始めました。「当時の台湾は、サステナブルファッションに対する認知が低かったので、どうにか注目を集めたいと思ったのです」と彼女は語っています。「まず自分が専門知識を持っているところから、サステナビリティについて消費者に知ってもらおうと考えました」。
ファッション業界における循環型の取り組み
picupiは、設立直後に最初の製品「00パンツ」を発表しました。この製品は受注生産のため在庫が不要で無駄がありません。この製品は、世界的に有名な下着ブランドの余剰な注文や織物工場から発生した余剰生地を活用する紡績工場とのコラボによって誕生しました。張氏は余剰生地をおしゃれでサステナブルなエコ製品へと生まれ変わらせることで、ファストファッション業界の繊維廃棄物の削減に貢献しています。
2020年、picupiは全ての製造工程を環境に配慮した取り組みにする「Wearing Change」プロジェクトを始動。これは、製品ライフサイクルの各段階に解決策を見出し、「ゆりかごからゆりかごへ」のリサイクルデザインに着目した自己完結型生産モデルを目指すプロジェクトです。
▲00パンツは、張氏が推進している商品の一つであり、製造から配送までのプロセスでカーボンニュートラルが実践されています。
picupiはさらにもう一つ、ファッションサステナビリティの促進に大きな影響を与える一歩を踏み出しました。それが漂白剤や防腐剤を含まない、貝殻から作られたリサイクル洗剤の開発です。これにより永続的な環境汚染をすることなく、洗濯ができるようになりました。張氏は、衣類の寿命を延ばすことが、サステナビリティへの近道であると信じています。また、パッケージにもこだわりがあり、緩衝材を減らすために正方形にし、再利用できるように印刷もしていません。
「私たちはサーキュラーエコノミーを通じて、ファッション業界にイノベーションを起こす企業です」と張氏は語っています。「それこそが私たちの存在意義であり、ただの洗剤を販売するブランドではありません。私たちはオプション(選択肢)を提示するのではなく、必要なことをひたすら追求していきます」。
台北のサステナブルファッションの現状
ファッション業界がもたらす環境と社会全体への悪影響についての認知が高まるにつれ、台北のサステナブルファッションはその勢いを増しています。毎年開催される台北ファッションウィークは、台湾のデザイナーたちが自らのブランドにサステナビリティを取り入れるきっかけとなっています。加えて、今年3月に開催された台北サステナブルコレクションなど、近年はサステナブルファッションをテーマとしたイベントも増えていて、台北ファッション業界のサステナビリティ促進に大きく貢献しています。台北では、まだサステナブルファッションが流行しているとは言えないものの、多くのデザイナーたちがリサイクル素材の使用や在庫管理の見直しを行うなど大きな成長を遂げています。ユニクロやNETといった大手ブランドも、衣類のリサイクルボックスなどを通じてサステナビリティを推進しています。
▲2020年の台北ファッションウィークで披露したサステナブルな展示の様子。
張氏のサステナブルファッションブランドpicupiは、コストのかかる事業ですが、台北市ではブランドが成長するための支援を行っています。その一つが、松山文創園区内にpicupi初となるポップアップストアをオープンしたことです。若い世代や海外からの旅行客たちが多く集まるこのエリアでは、環境に優しい製品と環境保護という理念が注目を集め、サステナブルファッションを広める推進力となっています。
グリーン化に向けた政府との連携
張氏はグリーン化に向けた活動を自社だけで行うのではなく、台北市と連携したワークショップやフォーラムの開催も数多く行っています。主に衣類のライフサイクルを通じたサステナブルな取り組みを、消費者と企業の双方に推進しています。その一方で、エコフレンドリーな目標を達成するには、環境に優しいグリーンマテリアルの使用やリサイクルだけでは、不十分であると張氏は考えています。積極的な古着の購入や古くなった衣類の修繕や再利用、または地域のサステナブルファッションブランドのサポートなど、小さいながらも多様な活動が環境に大きく貢献するというのが彼女の考えです。
台湾政府は先日、ECサイトの取引において梱包材の使用を制限する新たな政策(7月1日施行)を発表しました。これは、ポリ塩化ビニル(PVC)の使用を禁じ、紙製の包装材の90%以上が再生紙製であることを要求するものです。さらにプラスチック製梱包材の場合は、25%以上がリサイクル材であることも規定されています。
これらの政策について張氏は、「政府による規制と幅広いサポートは、コンプライアンスの準拠と、より大きな利益を生むためには不可欠なことです」とコメントしています。また、張氏は消費者や企業ブランドへの教育に向け、台北市との継続的な連携も期待しています。「これらの活動には困難な点もありますが、台北市が主体となることで、ファッション業界がグリーンな未来を踏み出す一歩となるでしょう」。
▲環境、人、衣類に優しいリサイクル洗剤は、張氏が今年推奨するサスティナブルな製品です。
サステナビリティの推進
移り変わりの早いファッション業界でサステナビリティを推進するには、あらゆる角度から問題に取り組み、たとえ些細な変化であっても業界にお手本を示すことが重要です。だからこそ張氏は、業界の内外から改善の可能性を見直し、生産の革新とグリーンマテリアルに対する高額なリサーチに人材とリソースを投入するという、利益追求型の株主であればリスクを感じるような経営判断をしてきました。
環境保護に大きな革新をもたらす上で教育は不可欠な要素です。彼女は現在、国立台北大学の自然資源與環境管理研究所で環境管理を学び、世界の最新のサステナブルな取り組みやコンセプトについての知識を得ています。さらに実践大学の服装設計系研究所で非常勤講師を務めている張氏は、デザイナーを志す学生たちにサステナブルファッションの指導をしています。環境に悪影響をもたらす習慣を学ぶ前に良い習慣を教え、環境に優しい製品をゼロから一緒にデザインしているのです。
▲サステナブルに対応するため、多くの企業が張氏とコラボをして、パッケージの異なるグリーン洗濯洗剤を展開しています。
張氏がここまでする理由はシンプルで、娘と未来の世代のために、より良い世界を創るためです。夢を追いかける娘に健やかな環境を遺すという決意が、彼女を常に前進させる原動力となっています。「これは母親のエゴかもしれません」と張氏は笑います。彼女の言葉はシンプルですが、次世代とこれからの世界に輝かしい未来を遺すという母親の愛と決意にあふれていました。
サステナブルファッション:母親が目指す明るい未来
文:Kai Ping Fang
編集:下山敬之
写真:Jean Chang
ファッション業界による環境や社会へのネガティブな影響が認知されるようになったことで、世界中でサステナブルファッションに対する注目が集まっています。中でも大手ファッションブランドが推進するサーキュラー(循環型)ファッションやアップサイクルといった取り組みが人気を呼び、素材の再利用やリサイクルの促進や廃棄、汚染の削減に貢献しています。
▲張氏は、ポップアップストアなど様々な方法でサステナブルファッションの概念を提唱しています。
元ファッションデザイナーであり、ファッション雑誌「Bella (儂儂)」の編集長を務めていた張倞菱(ジャン・ジンリン)氏は、こうした変化の必要性に何年も前から気づいていたと言います。およそ20年に渡って台湾のファッション業界で活躍した経験から、労働環境の悪い工場や資源の無駄遣い、汚染といった業界が抱える環境問題や社会問題を直接目の当たりにしてきました。彼女は、一児の母親として、未来の子供たちに与える影響を少しでも抑える事に責任を感じ、ファッションメディアから引退。2016年に台湾のサステナブルファッションとサーキュラーエコノミー(循環経済)の推進を目的とする「picupi(挑品)」というブランドを設立しました。
▲張氏は子供により良い環境を提供するため、ファッション業界でサステナブルを熱心に推進しています。
サステナブルファッションビジネスへの参入
張氏がファッション業界が抱えるネガティブな影響に気づいたのは、ファストファッションを題材にしたドキュメンタリー映画『The True Cost』(2015年)を鑑賞したことがきっかけでした。この映画では、労働力の搾取、有害化学物質の使用、不適切な廃棄物処理など、安価なファストファッションの生産に必要な真の代償に焦点が当てられています。これまで注目されてこなかったファッション業界による環境的・社会的影響が明らかになったのです。
張氏は以前にも子を持つ母として、気候変動が与える将来への影響を気にかけていました。そんな中で、「前の世代の人たちが犯した過ちの責任を、なぜ次の世代が背負わなくてはいけないの?」という娘の疑問が張氏には強く響き、彼女は立ち上がることを決意したのです。
▲張氏が主催したイベントや話し合いを通じて、持続可能性への関心が高まっていることが明らかです。
そしてファッションと環境的サステナビリティの結びつきを強固にしたいという想いから、張氏は自らサステナブルファッションのビジネスを始めました。「当時の台湾は、サステナブルファッションに対する認知が低かったので、どうにか注目を集めたいと思ったのです」と彼女は語っています。「まず自分が専門知識を持っているところから、サステナビリティについて消費者に知ってもらおうと考えました」。
ファッション業界における循環型の取り組み
picupiは、設立直後に最初の製品「00パンツ」を発表しました。この製品は受注生産のため在庫が不要で無駄がありません。この製品は、世界的に有名な下着ブランドの余剰な注文や織物工場から発生した余剰生地を活用する紡績工場とのコラボによって誕生しました。張氏は余剰生地をおしゃれでサステナブルなエコ製品へと生まれ変わらせることで、ファストファッション業界の繊維廃棄物の削減に貢献しています。
2020年、picupiは全ての製造工程を環境に配慮した取り組みにする「Wearing Change」プロジェクトを始動。これは、製品ライフサイクルの各段階に解決策を見出し、「ゆりかごからゆりかごへ」のリサイクルデザインに着目した自己完結型生産モデルを目指すプロジェクトです。
▲00パンツは、張氏が推進している商品の一つであり、製造から配送までのプロセスでカーボンニュートラルが実践されています。
picupiはさらにもう一つ、ファッションサステナビリティの促進に大きな影響を与える一歩を踏み出しました。それが漂白剤や防腐剤を含まない、貝殻から作られたリサイクル洗剤の開発です。これにより永続的な環境汚染をすることなく、洗濯ができるようになりました。張氏は、衣類の寿命を延ばすことが、サステナビリティへの近道であると信じています。また、パッケージにもこだわりがあり、緩衝材を減らすために正方形にし、再利用できるように印刷もしていません。
「私たちはサーキュラーエコノミーを通じて、ファッション業界にイノベーションを起こす企業です」と張氏は語っています。「それこそが私たちの存在意義であり、ただの洗剤を販売するブランドではありません。私たちはオプション(選択肢)を提示するのではなく、必要なことをひたすら追求していきます」。
台北のサステナブルファッションの現状
ファッション業界がもたらす環境と社会全体への悪影響についての認知が高まるにつれ、台北のサステナブルファッションはその勢いを増しています。毎年開催される台北ファッションウィークは、台湾のデザイナーたちが自らのブランドにサステナビリティを取り入れるきっかけとなっています。加えて、今年3月に開催された台北サステナブルコレクションなど、近年はサステナブルファッションをテーマとしたイベントも増えていて、台北ファッション業界のサステナビリティ促進に大きく貢献しています。台北では、まだサステナブルファッションが流行しているとは言えないものの、多くのデザイナーたちがリサイクル素材の使用や在庫管理の見直しを行うなど大きな成長を遂げています。ユニクロやNETといった大手ブランドも、衣類のリサイクルボックスなどを通じてサステナビリティを推進しています。
▲2020年の台北ファッションウィークで披露したサステナブルな展示の様子。
張氏のサステナブルファッションブランドpicupiは、コストのかかる事業ですが、台北市ではブランドが成長するための支援を行っています。その一つが、松山文創園区内にpicupi初となるポップアップストアをオープンしたことです。若い世代や海外からの旅行客たちが多く集まるこのエリアでは、環境に優しい製品と環境保護という理念が注目を集め、サステナブルファッションを広める推進力となっています。
グリーン化に向けた政府との連携
張氏はグリーン化に向けた活動を自社だけで行うのではなく、台北市と連携したワークショップやフォーラムの開催も数多く行っています。主に衣類のライフサイクルを通じたサステナブルな取り組みを、消費者と企業の双方に推進しています。その一方で、エコフレンドリーな目標を達成するには、環境に優しいグリーンマテリアルの使用やリサイクルだけでは、不十分であると張氏は考えています。積極的な古着の購入や古くなった衣類の修繕や再利用、または地域のサステナブルファッションブランドのサポートなど、小さいながらも多様な活動が環境に大きく貢献するというのが彼女の考えです。
台湾政府は先日、ECサイトの取引において梱包材の使用を制限する新たな政策(7月1日施行)を発表しました。これは、ポリ塩化ビニル(PVC)の使用を禁じ、紙製の包装材の90%以上が再生紙製であることを要求するものです。さらにプラスチック製梱包材の場合は、25%以上がリサイクル材であることも規定されています。
これらの政策について張氏は、「政府による規制と幅広いサポートは、コンプライアンスの準拠と、より大きな利益を生むためには不可欠なことです」とコメントしています。また、張氏は消費者や企業ブランドへの教育に向け、台北市との継続的な連携も期待しています。「これらの活動には困難な点もありますが、台北市が主体となることで、ファッション業界がグリーンな未来を踏み出す一歩となるでしょう」。
▲環境、人、衣類に優しいリサイクル洗剤は、張氏が今年推奨するサスティナブルな製品です。
サステナビリティの推進
移り変わりの早いファッション業界でサステナビリティを推進するには、あらゆる角度から問題に取り組み、たとえ些細な変化であっても業界にお手本を示すことが重要です。だからこそ張氏は、業界の内外から改善の可能性を見直し、生産の革新とグリーンマテリアルに対する高額なリサーチに人材とリソースを投入するという、利益追求型の株主であればリスクを感じるような経営判断をしてきました。
環境保護に大きな革新をもたらす上で教育は不可欠な要素です。彼女は現在、国立台北大学の自然資源與環境管理研究所で環境管理を学び、世界の最新のサステナブルな取り組みやコンセプトについての知識を得ています。さらに実践大学の服装設計系研究所で非常勤講師を務めている張氏は、デザイナーを志す学生たちにサステナブルファッションの指導をしています。環境に悪影響をもたらす習慣を学ぶ前に良い習慣を教え、環境に優しい製品をゼロから一緒にデザインしているのです。
▲サステナブルに対応するため、多くの企業が張氏とコラボをして、パッケージの異なるグリーン洗濯洗剤を展開しています。
張氏がここまでする理由はシンプルで、娘と未来の世代のために、より良い世界を創るためです。夢を追いかける娘に健やかな環境を遺すという決意が、彼女を常に前進させる原動力となっています。「これは母親のエゴかもしれません」と張氏は笑います。彼女の言葉はシンプルですが、次世代とこれからの世界に輝かしい未来を遺すという母親の愛と決意にあふれていました。
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