発表日:2023-06-23
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TAIPEI #32 (2023 夏季号)
台湾の鉄板ステーキ物語:歴史と味覚の旅
文:Kuan Yuan Chu、Kai Ping Fang
編集:下山敬之
写真:George Zhan、Kuan Yuan Chu
台湾で最高のステーキを味わうなら、高級レストランや5つ星ホテルのことは忘れましょう。台湾では素朴な雰囲気のお店で、真の郷土料理を体験するのがベストです。
1970年代の台湾では、西洋料理は贅沢品であり、ごく一部の人しか口にすることができませんでした。当時は平均給与が比較的低くかったため、洋食のステーキはもちろん、おいしい食事にありつくことさえ難しかったのです。この状況を打破し、庶民でも手頃な値段でステーキを食べられるようにしたのが、孫東寶(ソン・ドンバオ)という料理人でした。彼は、賑やかな台北の町に、アイコニックな台湾式鉄板ステーキ店を構えました。この小ぢんまりとした店の噂は、たちまち町中へ、そして全国へと広がりました。
▲台湾の鉄板ステーキはここでしか食べられない特別な味なので、ぜひ一度試してみてください。
台湾式の鉄板ステーキは非常に独特です。まず、熱々の鉄板に乗せたまま提供されるので、台湾料理らしい音と香りが存分に楽しめます。さらにステーキ、付け合わせ、ソースが鉄板の上で一緒に焼かれるので、一口ごとに弾けるような風味が生み出されます。そして何より、熱々の鉄板の上で蒸発する油のジュージューという音は、それ自体が素晴らしい体験を演出してくれます。
鉄板から伝わるジリジリとした刺激
台湾のステーキハウスやステーキの屋台では、席に大きな紙ナプキンが置かれています。これは、ステーキを焼くときに鉄板から跳ねる油を防ぐためのもので、鉄板からジュージューという音がしている間は、ナプキンを鉄板の前に構えておきます。なぜここまでして鉄板にこだわるかというと、高温の鉄板で焼くことで肉汁と旨味が凝縮されますし、ジューシーなステーキにかぶりつく感覚こそ、何とも言えない至高の体験となるからです。ローストしたステーキをお皿に移して食べるアメリカンステーキでは、こうした感覚を味わうことはできません。
▲蓋を開けると湯気が立ち上り、ジュージューと焼けた鉄板の音がするのが、台湾鉄板ステーキの特徴です。
台湾料理を代表する鉄板ステーキのルーツは、香港発祥という説があります。香港には熱した鉄板に肉や魚介類を乗せ、ポテトや麺などの主食とソースを添えて提供する料理があります。あるいは、大きな鉄板の上で肉を焼き、一口大に切って出す日本の鉄板焼きがモデルとも言われています。諸説ありますが、それらが台湾料理に大きな影響を与えたことは間違いありません。
付け合わせの進化
鉄板の上にはステーキ以外に麺やミックスベジタブル、半熟の目玉焼きが並びます。これらは台湾の食文化に合わせてローカライズされています。そのため、あまり一般的ではないマッシュポテトや、ナイフとフォークには不向きな白米よりも麺が理想的な付け合わせとして選ばれたのです。そして、栄養価よりも利便性を重視してミックスベジタブル、さらに新鮮な卵が加えられました。
▲ミックスベジタブル、卵焼き、麺は定番の付け合せです。
台湾ステーキには必ず、コーンスープとガーリックトーストが付いてきます。これらは、一般の人々の好みに合わせた味付けに工夫されており、西洋式のものとは異なる趣が楽しめます。中にはサラダバーが付いたお店もありますが、これらの定番の付け合せはどのお店でも必ずセットになっています。
名前は同じでも違う味
ステーキハウスの席に着いた際、まず悩ましいのがメニュー選びです。黒胡椒ソースか、キノコソースかという選択を迫られます。しかし、メニューの表記どおりに考えてはいけません。そのまま読むと洋式のステーキソースを想像してしまいますが、実際には全くの別物です。洋式のソースはバターを使ったものが多いですが、台湾では醤油やサツマイモ粉など地元の食材を使うことで、独自の味に仕上げています。バターソースほどクリーミーではありませんが、うま味たっぷりのきのこソース、そしてピリっとスパイシーな黒胡椒ソース、どちらも魅力にあふれています。
なぜ輸入食材ではなく、あえて地元食材を使用するのかというと、答えはシンプルにコストです。台湾の乳業は他国ほど発展していないため、地元の食材を使用することで、価格を抑えているのです。しかし、コストを抑えても台湾のステーキソースは、洋式のソースにも引けを取らないクオリティで、非常にパンチが効いています。
ステーキハウスの選び方
実際に台湾で鉄板ステーキのお店を探す方法ですが、実は意外と簡単に良いお店が見つかります。台湾の鉄板ステーキはほぼ全ての夜市で味わうことができます。もっと贅沢な体験がしたいという方も心配はご無用。いくつかのチェーン店がその期待に応えてくれます。
例えば、完璧なカットにとことんこだわる「孫東寶台式牛排教父」、食通をも満足させる高級ステーキを提供する「貴族世家牛排」、芳醇な香りだけで肉好きを虜にする「我家牛排」などです。最高のステーキが食べたいなら、ぜひこれらのお店へ足を運びましょう。
▲台湾のステーキハウスでは台湾式のコーンスープと飲み物を提供しているので、より快適な時間が過ごせます。
家庭でステーキを調理するコツ
ステーキは食べたいけど外出は面倒という場合には、ご自宅でも美味しいステーキを焼く事ができます。ステーキのポテンシャルを最大限に引き出すポイントは、火加減と正確なタイミングです。高温で調理することで、ジューシーな肉汁を中に閉じ込め、絶妙な味わいに仕上がります。ミディアムレアにする場合は、焼き加減をじっくりチェックし、肉の中心から肉汁が出てきたところで火から下ろしましょう。
ウェルダンがお好みの方は、そのままもう少し長めに焼きます。しかし、焼きすぎると肉汁が流れ出てしまい、パサパサの硬い肉になってしまうので注意が必要です。この簡単なコツさえ掴んでおけば、どんな食通も絶賛するステーキを焼き上げることができます。
愛され続ける台湾の味
台湾の鉄板ステーキは、外すことができない特別なグルメです。ジュージューと音を立てる熱々の鉄板で焼き上げる伝統的な調理法、ユニークな付け合わせ、地元の食材を使ったソース、これら全ての個性が台湾の鉄板ステーキを際立たせています。また、夜市でも高級レストランでも味わうことができる身近な料理でもあります。ご家庭で調理をする場合は、火加減とタイミングに注意し、絶品の台湾鉄板ステーキを堪能しましょう。
▲台北には超大盛りステーキを提供する お店など、より多くの人たちを満足させる多種多様なステーキハウスがあります。(写真‧Kuan Yuan Chu)
一つ覚えておいて頂きたいのは、料理を見た目で判断してはいけないということです。慣れ親しんだ味とは異なるかもしれませんが、ユニークな風味の組み合わせが、あなたを別世界へと誘ってくれます。
👍おすすめ
我家牛排(信義和三店)
住所 信義区和平東路三段363号
営業時間 11:00~14:00;17:00~22:00 (月曜日~金曜日)
11:00~15:00;16:00~22:00(土日) (第2および第4火曜日は休業日)
孫東寶台式牛排教父(大安羅斯福店)
住所 大安区羅斯福路三段277号
営業時間 11:30~21:00 (月曜日~金曜日)
11:00~21:00 (土日)
牛魔王(士林店)
住所 士林区大南路83号
営業時間 17:00~00:00 (閉店時間は異なります)
台湾の鉄板ステーキ物語:歴史と味覚の旅
文:Kuan Yuan Chu、Kai Ping Fang
編集:下山敬之
写真:George Zhan、Kuan Yuan Chu
台湾で最高のステーキを味わうなら、高級レストランや5つ星ホテルのことは忘れましょう。台湾では素朴な雰囲気のお店で、真の郷土料理を体験するのがベストです。
1970年代の台湾では、西洋料理は贅沢品であり、ごく一部の人しか口にすることができませんでした。当時は平均給与が比較的低くかったため、洋食のステーキはもちろん、おいしい食事にありつくことさえ難しかったのです。この状況を打破し、庶民でも手頃な値段でステーキを食べられるようにしたのが、孫東寶(ソン・ドンバオ)という料理人でした。彼は、賑やかな台北の町に、アイコニックな台湾式鉄板ステーキ店を構えました。この小ぢんまりとした店の噂は、たちまち町中へ、そして全国へと広がりました。
▲台湾の鉄板ステーキはここでしか食べられない特別な味なので、ぜひ一度試してみてください。
台湾式の鉄板ステーキは非常に独特です。まず、熱々の鉄板に乗せたまま提供されるので、台湾料理らしい音と香りが存分に楽しめます。さらにステーキ、付け合わせ、ソースが鉄板の上で一緒に焼かれるので、一口ごとに弾けるような風味が生み出されます。そして何より、熱々の鉄板の上で蒸発する油のジュージューという音は、それ自体が素晴らしい体験を演出してくれます。
鉄板から伝わるジリジリとした刺激
台湾のステーキハウスやステーキの屋台では、席に大きな紙ナプキンが置かれています。これは、ステーキを焼くときに鉄板から跳ねる油を防ぐためのもので、鉄板からジュージューという音がしている間は、ナプキンを鉄板の前に構えておきます。なぜここまでして鉄板にこだわるかというと、高温の鉄板で焼くことで肉汁と旨味が凝縮されますし、ジューシーなステーキにかぶりつく感覚こそ、何とも言えない至高の体験となるからです。ローストしたステーキをお皿に移して食べるアメリカンステーキでは、こうした感覚を味わうことはできません。
▲蓋を開けると湯気が立ち上り、ジュージューと焼けた鉄板の音がするのが、台湾鉄板ステーキの特徴です。
台湾料理を代表する鉄板ステーキのルーツは、香港発祥という説があります。香港には熱した鉄板に肉や魚介類を乗せ、ポテトや麺などの主食とソースを添えて提供する料理があります。あるいは、大きな鉄板の上で肉を焼き、一口大に切って出す日本の鉄板焼きがモデルとも言われています。諸説ありますが、それらが台湾料理に大きな影響を与えたことは間違いありません。
付け合わせの進化
鉄板の上にはステーキ以外に麺やミックスベジタブル、半熟の目玉焼きが並びます。これらは台湾の食文化に合わせてローカライズされています。そのため、あまり一般的ではないマッシュポテトや、ナイフとフォークには不向きな白米よりも麺が理想的な付け合わせとして選ばれたのです。そして、栄養価よりも利便性を重視してミックスベジタブル、さらに新鮮な卵が加えられました。
▲ミックスベジタブル、卵焼き、麺は定番の付け合せです。
台湾ステーキには必ず、コーンスープとガーリックトーストが付いてきます。これらは、一般の人々の好みに合わせた味付けに工夫されており、西洋式のものとは異なる趣が楽しめます。中にはサラダバーが付いたお店もありますが、これらの定番の付け合せはどのお店でも必ずセットになっています。
名前は同じでも違う味
ステーキハウスの席に着いた際、まず悩ましいのがメニュー選びです。黒胡椒ソースか、キノコソースかという選択を迫られます。しかし、メニューの表記どおりに考えてはいけません。そのまま読むと洋式のステーキソースを想像してしまいますが、実際には全くの別物です。洋式のソースはバターを使ったものが多いですが、台湾では醤油やサツマイモ粉など地元の食材を使うことで、独自の味に仕上げています。バターソースほどクリーミーではありませんが、うま味たっぷりのきのこソース、そしてピリっとスパイシーな黒胡椒ソース、どちらも魅力にあふれています。
なぜ輸入食材ではなく、あえて地元食材を使用するのかというと、答えはシンプルにコストです。台湾の乳業は他国ほど発展していないため、地元の食材を使用することで、価格を抑えているのです。しかし、コストを抑えても台湾のステーキソースは、洋式のソースにも引けを取らないクオリティで、非常にパンチが効いています。
ステーキハウスの選び方
実際に台湾で鉄板ステーキのお店を探す方法ですが、実は意外と簡単に良いお店が見つかります。台湾の鉄板ステーキはほぼ全ての夜市で味わうことができます。もっと贅沢な体験がしたいという方も心配はご無用。いくつかのチェーン店がその期待に応えてくれます。
例えば、完璧なカットにとことんこだわる「孫東寶台式牛排教父」、食通をも満足させる高級ステーキを提供する「貴族世家牛排」、芳醇な香りだけで肉好きを虜にする「我家牛排」などです。最高のステーキが食べたいなら、ぜひこれらのお店へ足を運びましょう。
▲台湾のステーキハウスでは台湾式のコーンスープと飲み物を提供しているので、より快適な時間が過ごせます。
家庭でステーキを調理するコツ
ステーキは食べたいけど外出は面倒という場合には、ご自宅でも美味しいステーキを焼く事ができます。ステーキのポテンシャルを最大限に引き出すポイントは、火加減と正確なタイミングです。高温で調理することで、ジューシーな肉汁を中に閉じ込め、絶妙な味わいに仕上がります。ミディアムレアにする場合は、焼き加減をじっくりチェックし、肉の中心から肉汁が出てきたところで火から下ろしましょう。
ウェルダンがお好みの方は、そのままもう少し長めに焼きます。しかし、焼きすぎると肉汁が流れ出てしまい、パサパサの硬い肉になってしまうので注意が必要です。この簡単なコツさえ掴んでおけば、どんな食通も絶賛するステーキを焼き上げることができます。
愛され続ける台湾の味
台湾の鉄板ステーキは、外すことができない特別なグルメです。ジュージューと音を立てる熱々の鉄板で焼き上げる伝統的な調理法、ユニークな付け合わせ、地元の食材を使ったソース、これら全ての個性が台湾の鉄板ステーキを際立たせています。また、夜市でも高級レストランでも味わうことができる身近な料理でもあります。ご家庭で調理をする場合は、火加減とタイミングに注意し、絶品の台湾鉄板ステーキを堪能しましょう。
▲台北には超大盛りステーキを提供する お店など、より多くの人たちを満足させる多種多様なステーキハウスがあります。(写真‧Kuan Yuan Chu)
一つ覚えておいて頂きたいのは、料理を見た目で判断してはいけないということです。慣れ親しんだ味とは異なるかもしれませんが、ユニークな風味の組み合わせが、あなたを別世界へと誘ってくれます。
👍おすすめ
我家牛排(信義和三店)
住所 信義区和平東路三段363号
営業時間 11:00~14:00;17:00~22:00 (月曜日~金曜日)
11:00~15:00;16:00~22:00(土日) (第2および第4火曜日は休業日)
孫東寶台式牛排教父(大安羅斯福店)
住所 大安区羅斯福路三段277号
営業時間 11:30~21:00 (月曜日~金曜日)
11:00~21:00 (土日)
牛魔王(士林店)
住所 士林区大南路83号
営業時間 17:00~00:00 (閉店時間は異なります)
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