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書店で沸き立つ啓蒙運動 市民の発言の場に (TAIPEI Quarterly 2017 春季号 Vol.07)

アンカーポイント

発表日:2017-03-27

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書店で沸き立つ啓蒙運動
市民の発言の場に


_ 陳婉箐 写真 _ 施純泰

オーナーや店員が自分のセンスで選んだ本を販売する個人経営の独立系書店は、今や「本を売るだけ」というビジネスモデルから抜け出し、市民が自由に意見を述べられる大小さまざまな規模のフォーラムやイベントを開催する最高の発言の場となっています。本に囲まれたこの空間では、多種多様なテーマの議論が活発に行われています。どんなテーマでもかまいませんし、どんな意見でも受け入れられますので、かしこまる必要はありません。議論に正解はなく、考え方一つで思わぬ影響力が生まれる可能性もあります。

閲楽書店
流行に媚びない文化サロン

松山文創園区(松山クリエイティブパーク)内の生態池近くに、人を惹き付ける魔力を持った小さな緑の木造建築があります。1954年築のこの建物はかつて松山たばこ工場の育児スペースとして使用され、日本風のレトロな雰囲気に溢れています。2001年に台北市の歴史建造物に登録され、台湾のテレビドラマ『巷弄裡的那家書店(Lovestore at the Corner)』の撮影に使用されてから、「閲楽書店(YUE YUE & Co.)」として営業を開始、昨年に文化人の張鉄志氏を総合アドバイザーに迎え、リニューアルオープンしました。TAIPEI 春季号 2017 Vol.07 書店で沸き立つ啓蒙運動  市民の発言の場に
▲ 古蹟を改築した閲楽書店は都会の中にたたずむ文化サロンで、セミナーや展覧会、音楽会が催されています。(写真/施純泰)

閲楽書店のイベントを企画するキュレーター、林哲安さんは、同書店は読書を中心的なコンセプトとし、多角化経営を行っていると話します。マイナーな分野のクリエーターが作品を展示したり演出を行う舞台を提供しているほか、各方面の人物を招き社会的なテーマについて意見をぶつけ合うイベントやセミナーも毎月開催していて、市民による発言・発信の場になってほしいと願っているとのことです。
本の選定では、世間の売れ筋ランキングにこだわらず、独自の観点で市場での差別化を図っています。林さんは「閲楽書店にある本はほとんどが文学や社会的なテーマに関するもので、張氏の書斎の延長線上にある店と言えるでしょう」と話します。本の選定を担当するようになった林さんは、張氏がかつて香港に居を移していたことから店内に香港の書籍コーナーを設けました。小規模な出版社の刊行物や独立系雑誌が中心で、最近では香港からの観光客が購入する割合が増えているとのことです。
松山文創園区は台湾内外から多くの観光客が訪れる人気のスポットで、外観も内装もきれいな閲楽書店で記念写真を撮りフェイスブックでチェックインする人の姿がよく見かけられます。書店には座席もあり、コーヒーと本の香りが広がるこの空間で感動的な読書体験ができます。

オープンな思想の場
「公共冊所」

まだ20代の楊緬因さんは台湾大学文学部人類学科に在学していたころ、中古本の路上販売をしていて本がどんどん溜まっていったことから、卒業を待たずに台湾師範大学近くの泰順街にある物件の地下フロアに書店「公共冊所(The Libratory)」をオープンしました。「公衆トイレ」を意味する中国語の「公共厠所」と同音のユーモラスな店名で、「オープンな場所」にしたいとのことです。TAIPEI 春季号 2017 Vol.07 書店で沸き立つ啓蒙運動  市民の発言の場に
▲ 書店は単に本を売る場所でなく、文化、思想の交流の場にもなります。(写真/施純泰)

店内の本は大半が社会科学関連のものですが、古本屋さんではあまり見られない学術論文や政府刊行物も置いてあるため、近くの台湾大学や台湾師範大学の学生が「お宝探し」にやってきます。「独特なスタイルを狙ってつくったわけではなく、限られたリソースを有効利用するうちに自然に個性的な書店になったんです」と楊さんは言います。店をたたんだ漫画専門店から買い取ったカウンターや道で拾ったソファー、友達からもらったレインボーフラッグなど、同じスペースに並べても全く違和感がなく、むしろ空間に自由奔放な感覚が生まれました。チェコ人留学生のピーターさんは「この店はボヘミアンな感じ」と評価しています。
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▲ 若き店長の楊緬因さん。大学時代に古本の路上販売をしてから、思い切って個性派書店をオープンさせました。(写真/施純泰)

公共冊所では、移行期の正義(民主主義体制へ移行する際、 過去の人権侵害、不正義に対する清算、 名誉回復、補償等を実現すること)や同性婚、テイスティング(利き酒)に関するセミナーや、書籍の発売記念イベントもよく開催しています。楊さんは「自分が人間らしく生きていると感じるには、仕事と読書と友達づくりが必要です。書店の経営は単なる事業でなく、ライフスタイルでもあります」と話します。ただ、書店の経営は簡単でなく、楊さんも事業パートナーも日中は別の仕事をしています。このため公共冊所の営業開始は午後4時からですのでご注意ください。

水牛書店
本と大地をつなぐ窓

青果店も兼ねる「水牛書店(バッファロー・ブックストア)」が、民進党籍の元立法委員(国会議員)、羅文嘉さんと関係があることは多くの人に知られています。羅さんは1966年創設の水牛出版社の前社長からオファーを受け、2012年に同社社長に就きました。政界を離れてからは桃園市新屋区の実家で農業を営むかたわら、古い家を利用して書店を開き、2013年には台北支店もオープンさせました。
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▲ 水牛書店は小規模農家の青果販売を支援する場所でもあり、収益の一部を僻地の子供たちの教育支援に充てています。(写真/施純泰)

「水牛書店はゆっくりと今の姿に育ってきました」。台北支店長の劉昭卉さんはこう話します。新屋区の小規模農家が農薬や化学肥料を極力抑えて作った青果は売れ行きが良くないため、販売を支援するため店の外で露天販売し、仕入れの数を増やしてきました。また、健康的な食材の大切さを伝えようとレストランも開設しました。このため、レストランで食事を済ませた後、書店で本を買ったり青空市で野菜を買ったりするお客さんがたくさんいます。水牛出版社の羅社長は企業の社会的責任を果たすため、お米の販売収益を僻地教育の支援に充てることで好循環を生み出しています。
水牛書店では文学、歴史、哲学、台湾文化や農業関連の本が多く、壁一面の水牛出版社コーナーにはお宝探しにきた民国40年~50年代(1951~1970年)生まれの人たちの姿がよく見られます。学生時代に使っていた参考書を発見してとても感動していた人もいました。店では食育セミナーを毎月開いていますので、関連書籍は特によく売れています。
フリーランサーの謝さんはこの場所をオフィス代わりにしていて、明るい空間に親切な店のスタッフ、おいしいドリンクなど「読書と創作に格好の場所」と絶賛しています。台北支店長の劉さんは「水牛書店で興味のある本が見つかるとうれしいです。ぜひ一度いらしてください」と人々の来店を歓迎しています。

この春おすすめの一冊

TAIPEI 春季号 2017 Vol.07 書店で沸き立つ啓蒙運動  市民の発言の場に香港の雑誌『号外(シティー・マガジン)』を創刊した香港作家の丘世文氏(故人)の自伝的小説『周日牀上』は、1980年代の香港のホワイトカラーの日常と感情のもつれを描いた代表作品です。丘氏の没後20週年を記念して再刊された復刻版は台湾で閲楽書店が独占販売していて、同店の林哲安さんおすすめの一冊です。
TAIPEI 春季号 2017 Vol.07 書店で沸き立つ啓蒙運動  市民の発言の場に閲楽書店
光復南路133 号
(02)2749-1527


TAIPEI 春季号 2017 Vol.07 書店で沸き立つ啓蒙運動  市民の発言の場に楊緬因さんは人間模様を描いた書籍を読むのが好きなため、公共冊所は独立系出版社の游撃文化の名義で『無家者:從未想過我有這麼一天(Life Stories of the Homeless in Taiwan)』を出版しました。これは作者の李玟萱さんがホームレスの人10人とソーシャルワーカー5人の物語を記録したもので、飾り気のない真摯な文体で人間の本来の姿を映し出し、人生のリアルな苦境を見つめています。
TAIPEI 春季号 2017 Vol.07 書店で沸き立つ啓蒙運動  市民の発言の場に公共冊所
泰順街24 号地下室
0952-631-240


TAIPEI 春季号 2017 Vol.07 書店で沸き立つ啓蒙運動  市民の発言の場に日本の漫画『深夜食堂』は主人公のマスターが作る人情味溢れる家庭料理が受け、読者の熱烈な反響を得ました。フードスタイリストの飯島奈美さんが手掛けたレシピ集『深夜食堂の料理帖』は『深夜食堂』に登場する代表的な料理を再現しています。紹介されている料理を作るのは簡単で、劉昭卉さんは「試しに作ってみれば新年の食卓で健康を話題にできますよ」とおすすめしています。
TAIPEI 春季号 2017 Vol.07 書店で沸き立つ啓蒙運動  市民の発言の場に水牛書店
瑞安街222巷2号
(02)2707-7003

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