発表日:2023-03-10
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TAIPEI #31 (2023 春季号)
台北餃子ガイド
文:Kuan Yuan Chu 編集:下山敬之 写真:Kungku Chen、Taiwan Scene
餃子は、近代の通貨が登場する以前の貨幣である元宝にその形が似ていることから、昔から幸運をもたらす食べ物と信じられてきました。台北には食欲をそそる餃子専門店がたくさんあります。
▲餃子は台湾における庶民の味です。
今回は、ライフスタイル雑誌『好感』やグルメ雑誌『食尚玩家』の編集長を務める専門家、徐延之(シュー・イェンズー)氏をお招きし、一市民としての視点、そして業界人としての視点から台北の多彩な餃子を紹介して頂きました。
台北の人にとっての餃子
「台北の人々にとって餃子は、日常の中にある庶民の味です」と徐氏は言います。その詳細について、餃子の社会的・政治的背景を自身の経験をまじえつつ紹介してくれました。
▲メディア関連の仕事をしている徐延之氏は、餃子に関する知識が豊富です。
社会史的な観点から見ると、餃子は1948年から1950年にかけての中華民国政府の到来と、それに伴う数百万人規模の移民によって、台湾の人々の歴史と生活に溶け込んだ食べ物と言えるでしょう。中国北部から来た人たちが、餃子など小麦粉を使った食べ物を台湾に持ち込んだのです。
「台北では、山東餃子店、青島餃子店など、中国の地名が入った店名をよく見かけますが、それもそういった歴史的背景があるからです」と徐氏は言います。
1970年代になると、餃子を食べることは特別なことではなくなっていました。「一番美味しい餃子は?と聞かれたら、誰もが『お母さんが作った餃子』と答えるでしょう」。各家庭で作られる餃子には、それぞれの家庭の味があると徐氏は言います。「子供のころ、お弁当に手作りの餃子を持って学校へ行きました。私たちの世代にとっては、日本のお弁当に入っている梅干しと同じで、学校での昼食の思い出となっています」。徐氏は懐かしい経験を思い出しながら、「お弁当の時間がいつも楽しみでした」と話してくれました。
餃子は昔ながらの料理ではありません。お腹も心も満たしてくれる餃子のお店は、どの街にもあって、忙しい都会で人々の心を癒すように常にそこに存在しています。「心を癒してくれる食べ物であり、いつでもどこでも気軽に食べられる。餃子とはそういう存在なんです」と徐氏は言います。
餃子の名店探し
餃子はどの家庭にも独自のレシピがあり、台北のレストランで食べられる味も千差万別です。そこには、中国の異なる地域からの移民が何世代にもわたって集まり、交流を重ねてきた都市であるという台北の本質が現れていると徐氏は指摘します。「街そのもののサイズは小さいですが、さまざまな人々や文化のるつぼとなっているのです」。
そのため、台北の餃子はバラエティに富んでおり、ほとんどのお店に独自のレシピがあります。ですが、徐氏をはじめ台北に住む多くの人にとっては、子どもの頃の懐かしい味が今でも一番のお気に入りです。「餡の中に斬新な具材を使っているところもあります。でも、個人的には受け入れられません。昔ながらの、伝統的、本格的な餃子が好きなんです」と徐氏は笑って話します。「イタリア人にとってハワイアンピザが屈辱的であるように、私にとって餃子というのはキャベツや白菜、ニラなどが入っているべき料理なんですよ」。
▲餃子の餡は味の決め手です。
台北には餃子の名店が点在しています。それぞれがオリジナルの味を持っているので、美味しい餃子を探すことは徐氏の楽しみなのだそうです。「美味しい餃子に出会うというサプライズは、人生における小さな幸せであり、しかも簡単につかむことができます」。
▲鼎泰豊が提供する蒸し餃子の品質が安定し、お店で働いている料理人の姿はよく知られているシーンです。( 写真/ Taiwan Scene)
餃子の種類
最もポピュラーな水餃子のほかにも、さまざまな調理法のものがあります。 中でも人気なのが、蒸し餃子(蒸餃)、鍋焼き餃子(鍋貼)、焼き餃子(煎餃)です。
👆水餃子
👆蒸し餃子
👆鍋焼き餃子
👆焼き餃子
蒸し餃子は小籠包に似ており、木製のせいろで調理されます。店によっては、せいろの下に松の枝を敷いて、松の香りを加えているところもあります。また、蒸し餃子と水餃子では違う皮を使っています。蒸し餃子は調理過程で皮が固くなってしまいやすいのです。これを避けるために、生地を熱湯で練ると餃子が絶妙な柔らかさになります。蒸し上がりは、ゼリーのような透明感があり、味もふんわり濃厚です。
鍋焼き餃子も焼き餃子もフライパンで焼き上げるので、違いがわからないかもしれません。しかし、形は全く違います。鍋焼き餃子の方が焼き餃子よりも長く、通常は皮の両端を開いた状態にしています。また、鍋焼き餃子は水分が少なくなるため、非常にパリパリとした食感をしています。
一方の焼き餃子は元宝の形に似ており、鍋焼き餃子よりも水を多く入れてフライパンで焼き上げます。
徐氏によると、かつての台湾では焼き餃子は一般的ではなかったそうです。この形状のものは主に鍋物の具材でしか見かけません。焼き餃子は、日本の文化や料理が台湾に伝わった西暦二千年のころに初めて普及したものです。日本の餃子は皮が薄く、味も濃いので主におかずとして食べられるのに対し、台湾では主食として食べられます。
おいしい餃子の条件
皮
「私に言わせると、まず何より重要なのは皮です」と徐氏は言います。生地と皮は餃子を口に入れたときの食感を決定づけます。最高の皮は、手作りの出来立てでなければなりません。一番の違いはその滑らかさ。もちもちの食感は、出来立ての皮でしか味わえません。
作りたての皮は、餃子同士がくっつかないように小麦粉を多めに使うので、唇や舌に触れた時に柔らかな食感が感じられます。機械で作った皮は薄くできますが、乾燥すると硬くなりやすいのです。
皮と言えば、おいしい鍋焼き餃子と焼き餃子の重要な要素として、餃子の周囲にできる「羽」もポイント。これがパリッと楽しい食感を与えてくれます。徐氏のおすすめは、ミシュラン台北のビブグルマンに選出された信義区のレストラン「都一處(Do It True)」。
ここの「褡褳火焼」は、徐氏が台北で最もおいしいと認める鍋焼き餃子です。
皮はパリッと香ばしく、餡をしっかり包み込んでジューシーに仕上がっています。
具
具の組み合わせも美味しい餃子の決め手となります。それぞれの材料の相性が完全にマッチしていることが肝です。例えば、徐氏おすすめのレストラン「三老村」では、魚の水餃子が提供されています。この魚餃子の具は、中に入っているニラが魚の淡白な味と最高にマッチしており、絶妙なバランスを演出しているのです。また、青島餃子館では、豚肉の餡に絶妙な割合で生姜を混ぜており、さっぱりとした昔ながらの餃子が楽しめます。
また、徐氏は張記鍋貼牛肉麺の餡についても話しています。一般的なニラではなく、黄ニラを使った餡は、他店とは一線を画しているのだとか。
タレ
タレも非常に重要な要素であり、徐氏はレストランのオーナーに「このお店ではどんなタレを置いていますか」と尋ねることで、そのレストランを判断することもあるそうです。龍門客棧餃子館のような自家製ソースも重要なポイントで、店主のおすすめを聞きながら、そのお店の最高の味を想像します。
一般的には、醤油、ごま油、酢の3つでいただくのが定番です。
これら3つの要素だけでなく、台北の餃子店では、副菜や煮込み料理も含めた総合的な美食体験が満喫できると徐氏は言います。特に龍門客棧餃子館の林森店は、全ての要素がうまく調和したお店であると高く評価しています。
▲餃子の食べ方はいろいろです。水餃子を牛肉スープや酸辣湯に入れて食べるのは定番です。
▲完璧な餃子には、それに合う一品料理が欠かせません。
👍おすすめ
水餃子
龍門客棧餃子館 (林森店)
住所 中正区林森南路61巷19号
営業時間 17:00 ~ 22:45 (月曜日定休)
青島餃子館
住所 中山区龍江路199号
営業時間 11:00 ~ 14:00;17:00 ~ 21:00
(月曜日~金曜日)
(土日定休)
三老村
住所 文山区木柵路三段5号
営業時間 11:30 ~ 14:30;17:00 ~ 20:30
(月曜日~土曜日)
(日曜日定休)
鍋焼き餃子
都一處 ( 仁愛店)
住所 信義区仁愛路四段506号
営業時間 11:00 ~ 14:00;17:00 ~ 21:00
張記鍋貼牛肉麵
住所 中正区延平南路101巷6号
営業時間 11:00 ~ 14:00;16:30 ~ 19:30
(土日定休)
焼き餃子
臺虎居餃屋
住所 大安区金華街155号
営業時間 16:00 ~ 23:30 (月曜日~木曜日)
11:00 ~ 00:30 (金曜日~土曜日)
11:00 ~ 23:30 (日曜日)
▲日本の居酒屋や立ち飲みの文化からアイデアを得た臺虎居餃屋では、ビールと焼き餃子を一緒に召し上がるのが完璧な組み合わせです。( 写真/ Taiwan Scene)
蒸し餃子
鼎泰豊 ( 新生店)
住所 中正区信義路二段277号
営業時間 11:00 ~ 20:30 (月曜日~金曜日)
10:00 ~ 20:30 (土日)
台北餃子ガイド
文:Kuan Yuan Chu 編集:下山敬之 写真:Kungku Chen、Taiwan Scene
餃子は、近代の通貨が登場する以前の貨幣である元宝にその形が似ていることから、昔から幸運をもたらす食べ物と信じられてきました。台北には食欲をそそる餃子専門店がたくさんあります。
今回は、ライフスタイル雑誌『好感』やグルメ雑誌『食尚玩家』の編集長を務める専門家、徐延之(シュー・イェンズー)氏をお招きし、一市民としての視点、そして業界人としての視点から台北の多彩な餃子を紹介して頂きました。
台北の人にとっての餃子
「台北の人々にとって餃子は、日常の中にある庶民の味です」と徐氏は言います。その詳細について、餃子の社会的・政治的背景を自身の経験をまじえつつ紹介してくれました。
社会史的な観点から見ると、餃子は1948年から1950年にかけての中華民国政府の到来と、それに伴う数百万人規模の移民によって、台湾の人々の歴史と生活に溶け込んだ食べ物と言えるでしょう。中国北部から来た人たちが、餃子など小麦粉を使った食べ物を台湾に持ち込んだのです。
「台北では、山東餃子店、青島餃子店など、中国の地名が入った店名をよく見かけますが、それもそういった歴史的背景があるからです」と徐氏は言います。
1970年代になると、餃子を食べることは特別なことではなくなっていました。「一番美味しい餃子は?と聞かれたら、誰もが『お母さんが作った餃子』と答えるでしょう」。各家庭で作られる餃子には、それぞれの家庭の味があると徐氏は言います。「子供のころ、お弁当に手作りの餃子を持って学校へ行きました。私たちの世代にとっては、日本のお弁当に入っている梅干しと同じで、学校での昼食の思い出となっています」。徐氏は懐かしい経験を思い出しながら、「お弁当の時間がいつも楽しみでした」と話してくれました。
餃子は昔ながらの料理ではありません。お腹も心も満たしてくれる餃子のお店は、どの街にもあって、忙しい都会で人々の心を癒すように常にそこに存在しています。「心を癒してくれる食べ物であり、いつでもどこでも気軽に食べられる。餃子とはそういう存在なんです」と徐氏は言います。
餃子の名店探し
餃子はどの家庭にも独自のレシピがあり、台北のレストランで食べられる味も千差万別です。そこには、中国の異なる地域からの移民が何世代にもわたって集まり、交流を重ねてきた都市であるという台北の本質が現れていると徐氏は指摘します。「街そのもののサイズは小さいですが、さまざまな人々や文化のるつぼとなっているのです」。
そのため、台北の餃子はバラエティに富んでおり、ほとんどのお店に独自のレシピがあります。ですが、徐氏をはじめ台北に住む多くの人にとっては、子どもの頃の懐かしい味が今でも一番のお気に入りです。「餡の中に斬新な具材を使っているところもあります。でも、個人的には受け入れられません。昔ながらの、伝統的、本格的な餃子が好きなんです」と徐氏は笑って話します。「イタリア人にとってハワイアンピザが屈辱的であるように、私にとって餃子というのはキャベツや白菜、ニラなどが入っているべき料理なんですよ」。
台北には餃子の名店が点在しています。それぞれがオリジナルの味を持っているので、美味しい餃子を探すことは徐氏の楽しみなのだそうです。「美味しい餃子に出会うというサプライズは、人生における小さな幸せであり、しかも簡単につかむことができます」。
餃子の種類
最もポピュラーな水餃子のほかにも、さまざまな調理法のものがあります。 中でも人気なのが、蒸し餃子(蒸餃)、鍋焼き餃子(鍋貼)、焼き餃子(煎餃)です。
蒸し餃子は小籠包に似ており、木製のせいろで調理されます。店によっては、せいろの下に松の枝を敷いて、松の香りを加えているところもあります。また、蒸し餃子と水餃子では違う皮を使っています。蒸し餃子は調理過程で皮が固くなってしまいやすいのです。これを避けるために、生地を熱湯で練ると餃子が絶妙な柔らかさになります。蒸し上がりは、ゼリーのような透明感があり、味もふんわり濃厚です。
鍋焼き餃子も焼き餃子もフライパンで焼き上げるので、違いがわからないかもしれません。しかし、形は全く違います。鍋焼き餃子の方が焼き餃子よりも長く、通常は皮の両端を開いた状態にしています。また、鍋焼き餃子は水分が少なくなるため、非常にパリパリとした食感をしています。
一方の焼き餃子は元宝の形に似ており、鍋焼き餃子よりも水を多く入れてフライパンで焼き上げます。
徐氏によると、かつての台湾では焼き餃子は一般的ではなかったそうです。この形状のものは主に鍋物の具材でしか見かけません。焼き餃子は、日本の文化や料理が台湾に伝わった西暦二千年のころに初めて普及したものです。日本の餃子は皮が薄く、味も濃いので主におかずとして食べられるのに対し、台湾では主食として食べられます。
おいしい餃子の条件
皮
「私に言わせると、まず何より重要なのは皮です」と徐氏は言います。生地と皮は餃子を口に入れたときの食感を決定づけます。最高の皮は、手作りの出来立てでなければなりません。一番の違いはその滑らかさ。もちもちの食感は、出来立ての皮でしか味わえません。
作りたての皮は、餃子同士がくっつかないように小麦粉を多めに使うので、唇や舌に触れた時に柔らかな食感が感じられます。機械で作った皮は薄くできますが、乾燥すると硬くなりやすいのです。
皮と言えば、おいしい鍋焼き餃子と焼き餃子の重要な要素として、餃子の周囲にできる「羽」もポイント。これがパリッと楽しい食感を与えてくれます。徐氏のおすすめは、ミシュラン台北のビブグルマンに選出された信義区のレストラン「都一處(Do It True)」。
ここの「褡褳火焼」は、徐氏が台北で最もおいしいと認める鍋焼き餃子です。
皮はパリッと香ばしく、餡をしっかり包み込んでジューシーに仕上がっています。
具
具の組み合わせも美味しい餃子の決め手となります。それぞれの材料の相性が完全にマッチしていることが肝です。例えば、徐氏おすすめのレストラン「三老村」では、魚の水餃子が提供されています。この魚餃子の具は、中に入っているニラが魚の淡白な味と最高にマッチしており、絶妙なバランスを演出しているのです。また、青島餃子館では、豚肉の餡に絶妙な割合で生姜を混ぜており、さっぱりとした昔ながらの餃子が楽しめます。
また、徐氏は張記鍋貼牛肉麺の餡についても話しています。一般的なニラではなく、黄ニラを使った餡は、他店とは一線を画しているのだとか。
タレ
タレも非常に重要な要素であり、徐氏はレストランのオーナーに「このお店ではどんなタレを置いていますか」と尋ねることで、そのレストランを判断することもあるそうです。龍門客棧餃子館のような自家製ソースも重要なポイントで、店主のおすすめを聞きながら、そのお店の最高の味を想像します。
一般的には、醤油、ごま油、酢の3つでいただくのが定番です。
これら3つの要素だけでなく、台北の餃子店では、副菜や煮込み料理も含めた総合的な美食体験が満喫できると徐氏は言います。特に龍門客棧餃子館の林森店は、全ての要素がうまく調和したお店であると高く評価しています。
👍おすすめ
水餃子
龍門客棧餃子館 (林森店)
住所 中正区林森南路61巷19号
営業時間 17:00 ~ 22:45 (月曜日定休)
青島餃子館
住所 中山区龍江路199号
営業時間 11:00 ~ 14:00;17:00 ~ 21:00
(月曜日~金曜日)
(土日定休)
三老村
住所 文山区木柵路三段5号
営業時間 11:30 ~ 14:30;17:00 ~ 20:30
(月曜日~土曜日)
(日曜日定休)
鍋焼き餃子
都一處 ( 仁愛店)
住所 信義区仁愛路四段506号
営業時間 11:00 ~ 14:00;17:00 ~ 21:00
張記鍋貼牛肉麵
住所 中正区延平南路101巷6号
営業時間 11:00 ~ 14:00;16:30 ~ 19:30
(土日定休)
焼き餃子
臺虎居餃屋
住所 大安区金華街155号
営業時間 16:00 ~ 23:30 (月曜日~木曜日)
11:00 ~ 00:30 (金曜日~土曜日)
11:00 ~ 23:30 (日曜日)
蒸し餃子
鼎泰豊 ( 新生店)
住所 中正区信義路二段277号
営業時間 11:00 ~ 20:30 (月曜日~金曜日)
10:00 ~ 20:30 (土日)